第5話
饒舌に語る遠藤に向かって、僕の背後から冷静な声が響いた。
「ちょっと待てよ、龍騎。」
振り返ると、林原が立っていた。
「邪魔をするな、修太朗。親の愛が込められた名前であっても習字の苦労は軽減されないということを大河内に語っているところだ。」
林原修太朗はまるで慰めるかのように僕の顔を覗き込んで言った。
「大河内がお前の勢いに気圧されているじゃないか。気の毒に。」
「何が気の毒に、だ。お前だってフルネームは画数が多いじゃないか。俺はそんな画数多い者のみが知る記名の際の大変さを大河内に教えているだけだ。」
すると、林原は一瞬だけ不敵な笑みを浮かべて僕に目配せをし、そして遠藤に向き直った。
「龍騎よ。確かに俺の名前は一見シンプルな線が並んでいてお前の名前ほど密集感のない風通しが良い様に見える。それでも全部で42画だから単純計算で大河内の二倍だ。」
「そうさ。しかも漢字五文字だ。大河内なんて姓が三文字だが名一文字で結果四文字に収めているから、お前と違って記名欄の余白が足りなくなるという失態は生じにくいのだぞ。そんな大河内の側にお前が付くとは、どうも納得できん。」
「おいおい、勘違いするな。俺は別に敵も味方も演じてはいない。大河内がお前に圧倒されているのを気の毒がっただけだ。・・・大河内、悪いが俺は君の援護をすることはできなんだ。なぜなら・・・。」
林原は姿勢を正して、もう一度遠藤を正面から見つめ返した。
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