第6話

「・・・大河内、悪いが俺は君の援護をすることはできなんだ。なぜなら。」

 林原は姿勢を正して、もう一度遠藤を正面から見つめ返した。

「なぜなら、なんだ?」

 遠藤が少しだけ身構えて問いかける。林原は眼鏡を直して勝ち誇るかのように言った。

「手書きの画数に躍起な龍騎に、俺は問いたい。パソコン入力のときはどうなのだ、とね。」

 その言葉に僕も遠藤も思わずハッとして息を飲んだ。林原は鋭い視線を遠藤へ向けて続けた。

「ローマ字入力で己の名前を打ってみるがいい。お前の名前はローマ字でカウントすれば11,大河内は13だ。そしておれは18も打たねばならん。この事実をお前はどう受け止めるつもりだ?しかも、だ。まあ確かに「龍騎」も漢字変換はすぐには出てこないだろうが、では「修太朗」はどうだ?「」ではなく「」なのだ。ついつい「修太郎」という候補をもってEnterを押してはDelして打ち直すのだ。この苦労をお前はどう理解してくれようというのだ?」

 僕の目の前には二人の熱き火花が見えている。

 彼らは僕のあずかり知らん世界で名前と格闘しながら生きているのだ。僕の小さな疑問などとは比べ物にならない世界で、彼らは思い、悩み、苦しみ・・・そして、マウントを取り合っている。この二人は、小学校からの仲だというが、きっとこうやって互いに競いつつ励ましあって来たのだろう。心の奥底の遠い遠いところに二人にしかわからない絆のようなものがあるのだ。

 僕には決して入り込めない、二人だけの友情と絆。

 そんな風に僕が感心していると、肩越しに特徴あるハスキー声が聞こえた。

「何をさっきから、くだらないことで熱くなっているんだか。」


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