大河内。

諏訪 剱

第1話

 大河内ってなんだよ。

 そう思ったのは小学生時代のとある朝のことだ。

 何か特別な日だったわけではない。むしろ何一つ変化のない毎日に飽きが来ていた程に変化のない普通の朝だった。変化がないことの方が当たり前になっていて変化を求める方がヘンなのかもしらんと思うほどに平凡で単調で何の変哲もない朝だった。

 いつもと同じ通学路を通って登校した僕は、いつもと同じように下駄箱で外履きから上履きに履き替えた。

 昨日履いていた上履きに足を入れる。

 繰り返すが、いつも通りの朝だったのだ。その日、上履きを新調したわけでもないし、洗ってきたわけでもない。昨日と同じ薄汚れた上履きだった。靴を履き替える動作さえ何一つ変化のつけようもない程の当たり前の登校時のルーティン・・・なのに。

 その日、僕は足の甲の部分に書かれた僕の名前の文字になぜだか見入ったんだ。

 理由などない。

 もちろん意味もない。

 単に、何気ないものにふと引っかかっただけなのだ。


「・・・大河内ってなんだよ。」


 僕は、その時声に出して呟いたことを覚えている。

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