1-4 ラック



ドアが叩かれ、兵からレイクを連れてきたと声がかかると、急いで扉に向かう。開けるとレイクが不安な様子で立っていた。


きっと、心配させた事を申し訳なく思っているのだろう。抱きしめ髪に顔を埋める。 

レイクの温もりに、今ここにいるのだと再確認できた


「兄さん、心配かけてごめんなさい。私…」


「いいんだよ。レイクが無事なら」


「兄さんみたいに強くなりたいの。だから」


「何も言わなくて良いよ。わかってる。俺の為になんだろ?嬉しいよ。

でも無茶はしないでくれ。レイクに何かあったら生きていけない」


謝罪の言葉を述べるレイクが愛しい。髪を撫で、頬に触れるとこちらを見上げてくる。反省している姿も可愛い


「私がいるのを忘れないでくれる?」


「ミクルちゃん‥兄を諫めてくれてたんでしょ?ありがとうございました」


「いいのよ。貴女の所に飛んで行きそうになったから、沢山雑務押しつけてやっただけよ」


「本当に人使いが荒い女だよ。俺の可愛いレイクとは大違いだ」


「ラック先生、言葉が崩れているよ」


ミクルに指摘され、気が緩んでいた事に気付く。

咳払いし、レイクの腰に手を回す


「私の仕事は終わりました。レイクと本日は休息を取ろうと思いますので、絶対に人を寄越さないで下さいね。絶対です。わかりましたか?」


はいはい。変態公爵様とミクルに茶化されながら、レイクを引き連れ監視塔を後にした


ーーー


白族は王の客という事で、城の隣りに建てられた軍上層部専用の宿泊所の1室を特別に与えられている。簡単な造りになっていて、水回りも整えられており、生活に困る事は無い

地族は絢爛豪華な物を嫌うので、城の造りも全て簡素だ。そんな無駄な事に費用を使うなら、農機具に財源を充てている


軍上層部と同じ宿舎なので、緊急招集の時に一緒に来てくれと呼び出しを受けるのだけは、難点だ。

特にミクルは最近、用事も無いのに部屋に来る事がある。正直言えば、レイクと2人きりで居たいので邪魔だ。

隊長に成り立ての頃は一切顔を見せなかったのに、心境に変化があったのだろうか


レイクを部屋に連れ込みドアを閉めると、再び抱きしめる。彼女の甘くて優しい香りで胸が満たされる


「本当に心配した」


「本当にごめんなさい」


「レレは強くなったよ。俺が言うから本当だ。でも実戦するなら一人ではまだ経験不足だ。

クマ相手に苦戦したんだから、言わなくてもわかるよね?

村の自警団に入っていて志願兵とはいえ、一般人も巻き込んだ。彼に何かあれば族間の問題になる。

次は俺が援護するから、一緒に行こうね。わかったかい?」


「‥‥わかった」


反省している姿が心にぐっとくる。顔が緩みそうになるのを自制心でこらえた

自分のしでかした事は充分反省しているだろう。責任持って補助術で護衛し、城まで連れてきたのだから、責めるのではなく今後の事を話した方が良いだろう


「おいで」


ソファーに座り、後ろ向きでレイクを膝に乗せる。この温もりが消えてしまっていたらと思うと、背筋が凍る。


良い歳した大人だから、少しは手を離せと地族の人々は言うが、白族から見ればまだ少女だ。自分の保護下に置いておくべき愛しい存在。

地族の領土では兄と呼ばせているが、将来を誓った相手なので守るのは当然の事


今研究している案件が終われば、自分だけのものにして良いと族長会議で決定されているから、早く終わらせて、誰も手出しできないようにしたい。

それをわかっていて、わざとこの決定を下した族長には腹が立つ


「兄さん?」


「ああ、ごめん。考え事をしてただけだよ」


「仕事は大丈夫?戻らなくて平気?」


「するべき事は終わらせたから、あとは最終調整だけだよ。

試験監督は俺の仕事じゃないし、ゆっくりできるから心配はいらないよ」


抱きしめていた手を緩め、レイクの腹部を撫でる。ピクリと反応する姿に目を細める。耳元で甘く囁く


「レレ、2人きりの時はなんだった?」


「‥‥ラン」


上目遣いで頬を染める姿も、凄く可愛い


「腹筋も鍛えられたね。一時はプニプニしていたのに」


「何年前の話よ!誰のせいだと思ってるの!?今はきちんと摂生してるから良いじゃない」


いつものレイクに戻ったようだ。自然と口から笑みが溢れる。

冷静で勇ましい大人のように振る舞っているが、少しつつけば直ぐへたれる所があり、実に楽しい性格をしている


撫でていた腹部から、右手を太ももの内側へ滑らせ、左手は脇腹の辺りを撫でる


「っあ‥」


「ゴロウから聞いたけど、あの男の子レレを口説いただけじゃ飽き足らず、性欲処理に利用したんだって。知ってた?」


ゴロウに連絡を取ると、何かを必死に隠そうとしていたので、脅したら直ぐ白状したが、話の内容に怒りで震えた。

絶対に完膚なきまでに、徹底的に潰してやる



「私、診療所にいたから知らない」


「ロンが相手してたそうだよ。あのイヌよくやるよ。今度好物を沢山持っていってやらないとな」


「そんなに、触らないでっ」


真っ白な頬をピンクに染め、こちらを見てきた愛しいレイクに唇を落とすと耳まで赤くなる。

こんな初々しい反応をしてくれるから変な男につけ込まれるかもしれないと、いつも心配になる


そんな子供ではないと怒るけど、今までは仕事も休日も一緒に居たから、危険とは無関係だっただけだ


この3年は研究が最後の追い込みになり、レイクも族長から地族の野外任務同行を任されるようになり、離れる事が多くなってきて気が気ではない。

白族に良い感情を持っている人達ばかりではないんだ


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