1-7 ミクル



塾に通い始めて半年が経った。

最初は王の子だからと関わって良いのかわからなかったカムイは、おおらかな性格だった。ガチガチに緊張してる私達に、産まれがそうだっただけで同じ地族同士だと笑い飛ばしてこちらに手を伸ばした姿は、今でも鮮やかに印象に残っている。

特にカナという少女は、父が兵士だが母の実家が牧場という事で、気が合う


そしてレイク。落ちこぼれだったと聞いていたが、それは教えていた側の問題だったとわかった。

基礎を一からしっかり教えると直ぐ応用が効き、数式は誰よりも早く解いてしまうようになった。

是非牧場の経理に来て欲しい。

性格も明るく素直で、本を読むのが趣味な為博識で、話していると直ぐ時間が経ってしまう。

そして一番驚いたのは、体格が小さいから戦闘訓練は不参加かと思いきや、相手の力を利用し秘孔を攻撃する体術を学んでいるそうだ。

ラックと以前腕相撲でやられた事もその応用だという。

私は基礎体力が高い為、武器と体術を併用した戦闘が向いているそうで、実際訓練が始まるととても面白く、自分によく合っているのが実感できた。


今日は牧場の朝の作業が早く終わったので、いつもより早めに教室に行ってみた。

外窓から中の様子を見ると、レイクがハタキを片手に掃除をしている。

いつも綺麗だと思っていたが、彼女がしてくれていたのか


『フワフワたっぷりクリームは

夢の中なら雲になる

お月様にちょこんと乗せて

キラキラお星様をパラパラと

くるっとまいたら

クルクルクレープの出来上がり』


クレープを知らないと言うから、先週連れて行った。とても美味しかったようで、乳を飲む子ウシのように必死に食べる姿が可愛いかったな。

歌まで作ってしまう程甘い物が気に入ったようだから、今度はワッフル屋に連れて行ってみよう


「っ!!ミクルちゃん…聞いてた?」


出窓にいるミクルに気付き、慌ててハタキで顔の前を隠す。行動が幼く妹ができた気分だ


「聞いてた。面白い歌だと思うよ」


「みんなには秘密だよ。あと、おはよう」


はにかんだ笑みを浮かべる姿。自分に気を許してくれていると思う。とても嬉しい

白族はどんな人達か最初は不安だったが、こうして触れ合う内に、レイクは魅力ある子だとおもった


ーーー


1年というのはあっという間に過ぎていく。

ただ武器を振るうのではなく、体の軸を使い力を増幅させる技術を使うようになってからは疲労が格段に減った。

基礎訓練や一人一人に見合った方法をラックが教えているおかげだ。とても良い教師だと思う


私は戦う才能があり、塾生の中で男性を差し置いて一番強くなった。

牧場ではなく兵士か騎士見習いにならないかとカムイから直々に声がかかり、家族と相談したら2つ返事で兵士になる事が決定された


私以外の塾生も才能をラックによって引き出され、卒業後はそれらを生かした仕事に就く事になった。レイクはラックの研究の補佐をするので卒業後も会いやすい環境になるのが嬉しい


「そういえば、この前公衆浴場でラック先生を見たよ。

番台の人と話してたけど、先生が浴場使ってるの見た事ないな」


ゴロウがハンカチにラックから教わった可愛いウサギの刺繍を施しながら話し出した。妹のだという。器用な奴だ


「いつも家で一緒に湯浴みしてるから、何か相談されて行ったんじゃない?

私も公衆浴場使った事無いから、行ってみたいな」 


ゴロウの手がピタリと止まった。寧ろ教室内の空気が固まった


「え?レイクちゃん何だって?先生と一緒に入ってるの?」


「ん?地族では一緒に浴場で洗いっこするのが普通なんでしょ?」


おいマジかよと、カムイの顔も引きつる


親と一緒に風呂に入るなんて遅くて7歳位までだ。公衆浴場なら別だが、それでも男女分かれて入るのが普通だ。しかも洗いっこって

でも、兄さんも知らなかったんじゃないかと弁明するレイク。兄の性癖をまだ信じられない、いや信じたくないのだろう。

皆から色々言われ、涙目のレイクを哀れに思ったカナが抱きしめる


「おはよう!今日は野外練習場を借りられたよ…どうした?皆、なんて顔してるんだ?」


問題の人が何も知らず教室に入ってくる。皆の冷たい視線を感じたのか、不審な顔をする


「ラック先生、レイクちゃんとお風呂入ってるって本当ですか?」


「兄さんちがうよね?知らなかっただけだよね?」


カナに抱きしめられたレイクの顔を見てラックは


「あ…」


こいつ、知ってて一緒に入ってたのか。

全員汚い物を見る目になっていく


「待て待て!確かに一緒に入ってるが如何わしい事はしてない!将来俺の妻になるんだから、触れ合ったって良いじゃないか!」


レイクがそんな話知らないと悲鳴をあげる。

族長から妹として同行するよう言われ、自分も兄と慕っていた男性がまさかの変態だったのだ


私は汚物を見る目で、ラックの前に立った


「この変態公爵!」


ラックはその日1日かけて、全員に弁明する事になった













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