1-8ミクル
あれから街の宿泊場に泊まっていたラックとレイクは軍上層部の宿泊施設に移された。
表向きは王の客人だからというが、内実はラックを監視しレイクに実害が及ば無い様にするためだ。ラックはベッドまで別にする必要ないじゃないかと不貞腐れていた。反省の色が全くない
2週間振りに再開された塾だったが、レイクはショックを隠しきれず過食になったようで、お腹に白い浮き輪を付けた見た目になってた。
ポインポイン跳ねる姿が後ろから見ると可愛い
今日は野外演習場で水晶を使った訓練になり、茶色の水晶のカケラを各自渡される。
水晶に属性の力を宿してそれを媒介して炎や水を出すとはいっても、家庭の台所で使う程度の物で、戦いに使うにはあまり威力が無い。
火の力が籠もった水晶を置き刺激を与えると炎が上がり、その上で煮炊きする。その程度だ。
力を使い切ると炎が出なくなり、また力を吸わせると使用できる。水晶が壊れるまで使えるとても便利な物だ。
土の水晶は土壌に水晶を埋め、半年かけて土の力を水晶に吸収させて使う。主な使い先は畑を耕したり開拓作業を行う時だ。比較的安定した力なので暴走する事はあまりない
「自分の体内の力と上手く混ぜ合わせる事で力が出せるようになる。まずは見本からだ」
ラックが水晶を握りながら土に触れると、触った所がゴボッと盛り上がり見る見るうちに2メートル程の真四角の土の塊りができた
「調子に乗って土を盛り上げすぎると地形が変形するから気をつけるように」
人差し指をスポッと差し込むと均衡を失った土塊りはバサっと音を立てて崩れる。中は殆ど空洞だった。凄い技術だ
まずは実践と言われたので、水晶を握って土に触れてみるが、アリの巣の穴がポッカリ空いただけだった。センスが無いようだ。落ち込む
カムイは竹の子のような物を、カナは雪だるまを作り上げていた。
黙って皆を見ていたレイクが徐にラックのもとへ近寄る。2週間避けられていたラックは笑顔でどうしたのか聞くと
「落ちろ」
レイクが冷たい声で水晶を目の前にかざすと、ラックの立っている周りに音もなく丁度良い大きさの穴が開き、叫びながら深く落ちていった。先が見えない
「ラック先生は消えたので、今日は皆でゆっくり自習しましょう」
スッキリした笑顔で振り向く姿に、この子は怒らせてはいけないと皆が悟った
ーーー
教室で各自自習をしていると、カムイからラックが反省していないという話が出た
「絶対変な物持っていると思うから、アイツの荷物漁ってやろうぜ」
ラックの荷物鞄を雑にひっくり返し中身を全て出す。
中は薬品の入った数個の小瓶、袋に入った数種類の水晶、刃渡り30センチの鋼の短剣、教材に紛れて手記が出てきた。
中身は小さな妖精さんの続編のようだ。
小さな妖精さんシリーズは販売予約数だけで2000万部を売りあげ、活版印刷機が稼働し過ぎて壊れたと逸話がある程、製本された側から売り切れる人気小説だ
白くて可愛い妖精さんの日常が書かれており、3作目の『白い妖精さんのはじめてのお使い』では、病気の兄の為マンドラゴラを命がけで採りに行く妖精さんの姿に、涙無くしては読めない
カムイがパラパラと手帳を捲りながら、舌を巻く
「箇条書きで書き溜めてあると思ったけど、しっかりとした内容だな。このまま出版できそうだ」
これら全てをラックが一人で書いていたのか
私は袋の紫色の水晶が気になり、指で摘んだ。綺麗な色だ。何かわからないので、カムイに聞いてみる
「この水晶何か知ってる?」
「それ音の水晶だよ。音を大きくしたり、声とか入れておけるんだ」
何か録音されているのだろうか。水晶を机の上にコンと置いてみる
『可愛い妖精さん。モエ作』
ラックの声で朗読されたものが入っている。なんだ、怪しいものじゃなかったのか。
ほっと一安心する
『可愛い妖精さんは言いました「私はお兄様の全てが好きよ」』
そう思っていたのも束の間、何だか音声が怪しくなっていく。背中がムズムズする感じだ。気持ち悪い。
「これって『可愛い妖精さん』を『俺のレイク』に置き換えたらしっくりくる内容な気がしない?」
カナの発言で違和感を覚えていた理由が判明した。
大人気の小説、ラックの心の妄想を具現化したものだったのだ。ずっと好きで読んできた小説に、こんな隠された意味があったのか。
ゴロウは窓に走り外に向かってオェーと吐いた。妹がいる彼に衝撃は計り知れないだろう。
何てもの作ってんだアイツ
モエの世界、闇が深すぎる
レイクは文字通り真っ白になっていた
暫くして、どう這い上がってきたのか泥だらけのラックが教室に戻ってきたが、生徒全員からゴミを見る目で見られ、再び惨劇が起こった
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