崩れた幻想
ある日、彼は私に一通のメールを出した。
私はびっくりするあまり子供用携帯を落としてしまった。母親に心配されながらも私は息を呑み、それを見た。
「すまん、後は頼んだ。」
それだけ彼は残して、以降連絡がくることはなかった──────。
「私はその後彼を必死に探し続けた───。」
彼女は下を向いて言う。
彼女は行動できる範囲で彼を必死に探した。役場の職員にも聞き回ったらしい。
だが、彼女の思いも虚しく、彼は見つからなかった────。
分かったのは彼は数年前に戸籍を変更せず、そのまま存在しなくなったという事実だけだったという。
「やられた、と思った。子供ながらにわかった。彼は………。」
顔を曇らせて彼女は言った。彼女の顔と声を聞いて分かった。きっと僕の父は……。
彼女はそのおもりを乗せてここまできてくれたんだろう。そのことに申し訳なさを感じた。
(……なんであんな逃げる真似したんだろう……。)
彼女にとても謝りたい気持ちになった。
彼女は黙り込んでしまった。余程父の存在が彼女の中で大きかったのだろう。
僕も悔しかった。泣きたかったけど涙を堪える。今は泣くべきじゃない。今泣くべきは僕じゃない。そう念じながら気持ちを押し込める。そして、彼女の方をまた見る。彼女の目はさっき見たよりうるうるして見えた。とても慰めてあげたいと思った。
彼女は僕と少し距離を取って後ろを向いて涙を拭う。彼女はたくましく、明るい子だ、と決めつけていたけれど僕は今それだけではないと思った。思ったのだ。
暫くして彼女は上を向いて涙を堪え、僕に笑って言う。
「貴方を追いかけてここまで来たの。」
「ねぇ、逃げよう。」
そういう彼女の顔はさっきとは一変してとても逞しく見えた。
彼女はとても輝いていた。
神様のように見えた。
彼女には今でも頭が上がらない。僕を唯一見捨てないで救おうとしてくれた人。
後の……。
(……逃げよう………)
僕はこの言葉を聞いた時、堪えられない程心から涙が溢れ出てしまった。
(……この人には敵わないなぁ……。)
Purple violet 遠野豊花 @yutaka49
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