クロッカス
「貴方を追いかけてここに来たの。」
その言葉はかなり重く、真剣な顔で、普段の彼女じゃないくらいきちんとした、そんな言葉だった。気軽に理由すら聞けないくらいの空気感だった。
「……あの日、私はあの人が雅人のお父さんだと思って、泣きながら見送ったわ。あぁ、もう一生会えないのかな。そう思った。」
彼女は下を向きながら淡々と話す。その姿は昔の面影すらないような、それともその面影を僕が壊してしまったのか。
悲しそうな顔をした彼女は話を続ける。
「でも、雅人がいなくなって数日後男の人が来た。家に入った瞬間焦ったような泣きそうな顔をして雅人の名前を叫び出した。それで雅人が誘拐されたのか、しようとされたのかわからなくなった。だから、その男の人に直接聞いたの。雅人に何か用があったんですか。って。」
「雅人に何か用があるんですか。」
私はその人を見てそう言わずにはいられなかった。とても焦っていた顔だったから。私にそう言われるとその人は顔色を変えて
「雅人は知りませんか。」
と言った。私は数日前雅人が白い服を着た男の人と車に乗って引っ越したのを知っていたから
「雅人なら引っ越しましたよ。」
と言った。そしたらその人は青ざめた顔になってぶつぶつと独り言を言い始めた。私が不安そうな顔をして彼を見ていると彼は元気のなさそうな顔で私を見て
「ありがとう。」
と言った。彼はそのままどこかへ駆け出しそうになった。私はどうしても彼のことが気になって
「あの!私にもできることがあったら言ってください!」
と言った。すると、彼はペンを胸元から取り出し一つの紙にローマ字と数字を書いた。連絡先だった。
「何かあったらここに連絡するから見てくれよ。頼んだよ。嬢ちゃん。」
そうふっと笑って言った。
彼はその後私に一つのメールを送った。
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