いわゆる「転生ファンタジー」とは正反対の仄暗さ、ままならなさが秀逸

これは転生する側ではなく、された側の肉体について、あるいは、近しい人が別の魂に置き換わられてしまう世界に焦点を当てた物語です。
転生した先で、前世から引き継いだ記憶や技術を用いて、良い思いをする作品は巷に多くありますが、それらと本作は一線を画しています。
転生は難病であり、受ける側の躰は物理的に損傷していくという世界観が衝撃的。
難病でありながらありふれた悲劇であり、それによって心身を病んだ人のための終末期医療を担う国が舞台になっています。
呻吟に満ちた病棟の光景は苦しく、その中で結びつきを強めていく少女と主人公のささやかな交流が、終わりをちらつかせつつも救いを感じさせます。
「飽和」した少女と、介護者である主人公。
少女は寝たきりではあるものの、死後に別世界へと旅立つことができるという点で、次の転生で消失する主人公より希望があるとも言える状態で、そのことがふたりの仲を一方的ではないものにしていると思いました。
前世が異なるためにたどたどしい言葉で伝えあった想い、死にゆく少女からの追悼――。複雑な価値観にしっかりとした説得力を持たせ、現実にも共通する感動を与えてくれる秀作です。