最終話「不本意な異世界召喚」

「ご主人様は、大馬鹿者です!」


 スクイが気がつくと、そこは真っ暗な部屋だった。、否、部屋ではない。


 上にも横にも光を阻むものは何一つなく、正しく形容するならそこは真っ暗な空間、あるいは世界だったと言うべきだろう。


 ここは、終わった世界。

 神々の世界。


「何故」


 ホロ、さん……?

 とホロに似た自分と同い年程度の女性を、訝しげに呼ぶスクイ。


 ホロは思い出したかのような顔をすると。

 元の年齢に戻る。


「何故ではありません!」


 目の前で不思議がまた増える。


 スクイは、死んだはずの自分と。

 生き返ったはずのホロが。


 この世界にいることに困惑する。


「生きるだとか死ぬだとか!」


 ホロは、スクイに抱きついて。

 胸を叩きながら叫ぶ。


「そんな、馬鹿みたいなことに囚われて!」


 救いだとか。

 世界だとか。


「そんなことのために戦って、苦しんで、死んじゃって!」


 だから。

 大馬鹿者だと。


「この状況は……」


 そんなことよりも説明が欲しい。

 困ったように笑うスクイを無視するように、ホロはスクイに抱きついて離れない。


 怒っている。


「えーと」


「5つあるSランク魔法」


 スクイが言い淀んでいると、声がする。

 白い髪の女性。


 天使。


 スクイを異世界に飛ばした存在。


「その、1つ」


 Sランク魔法。

 本来は神々が与える最高の魔法を指す言葉で。


 例外が4つ。

 神々が1人となった結果、5つとなった魔法。


 勇者の魔法、聖剣の魔法、愛の魔法、魔王の魔法。


「そして、神の魔法」


 スクイは、その言葉だけで。

 全てを理解し。


 今までの人生で1番。

 困ったような。


 どうしようもないという表情で。

 目線の行き場もなく、スクイの身体に顔を埋めているホロのつむじを見る。


「ミストル司祭の求めた、神になる方法」


 信託によるとその答えは、死を与えること。

 そして。


 神々は死を望んでいた。


「神殺しを条件とする、神になる魔法」


 この場にはスクイが初めて来た時、3人いた。

 ホロがいるということは、1人は彼女が殺したのだろう。

 スクイと戦った時の魔法が、生き残った神のSランク魔法だと思えば、恐らくは愛の神と推察でき。


 生の神を殺したスクイもまた、神になる。


「理屈で言えば、まさか」


 殺すことが条件。

 となると神々には存在する概念があったはずで。


「ホロさんは、愛の神に」


 そして。


「私は、生の神になったと言う、ことですか……?」


 呆然とするスクイに、天使はため息をつく。


「そんな程度の低い話はしていない」


 困惑するスクイの前に。

 もう1人の女性が現れる。


「てってれー!逆にスクイくんは、生と愛以外の全ての神になっちゃいました!」


 それは生の神。


「死んだと思ったでしょ?甘い!甘いね!神様を簡単に人間如きが殺せると思わないことね!」


 結構やばかったけどね!と。

 明るく笑う生の神に、困ったように頭を抑える天使。


「神々が永遠に苦痛を覚え、終わりを望むと同時に生まれた死の神」


 その因果関係はどちらが先かわからないが。


「その死の神の選んだお前は、死を救いとする信仰を掲げていた」


 そして、その考えが遠因となり。


「神々は存在した死という概念を受け入れた」


「えっと」


 その理屈は。

 無理矢理ではあるが。


「私が、神々を殺したと?」


「前にもそう言ったはずだ」


 死を肯定する思想。

 それを神々は異世界から知ったのではないかと。


 そして死が生まれたのではないかと。


「本当のところはさておいて、だ」


 無関係とは言いきれまいと。

 天使は不機嫌そうに吐き捨てる。


「お前はこれから、この世界の神になる」


 冗談がすぎる。

 やっと、死んだと思えば異世界の飛ばされ。

 もう一度救いに走り。


 自分の無力に打ちのめされ。

 またようやく、死ぬことができたのに。


 今度は神。


 ミストル司祭からすればなりたいものだったかもしれないが、スクイからすれば。


「そう、お前はここで永遠に、人々を救うことに囚われる」


 救えなかったことを、救えないことを想い、生きるという苦痛。


 永遠に続く地獄。

 終わらない責め苦。


「神々の力を持ってしても、世界を救うなどという絵空事は叶えられない」


 それこそ、世界を崩壊でもさせない限り。

 世界から完全に苦しみを取り除くことは不可能。


「まあ、適当な人間に、勇者にでも殺されに行けば代わってもらえるかもしれないが」


 勇者でも今のスクイを殺せるかはわからず。


 このSランク魔法がもう一度発動するかはわからない。

 下手をすれば。


「急激な神の死によって、世界が滅ぶかもしれんな」


 それも、悪くないんだろう?

 そう嘲笑う天使をホロは睨みつける。


「そうはさせません!」


 毅然と、ホロは言い放つ。

 そしてスクイに向き直った。


「ご主人様もわかっているはずです!死は救済かもしれませんが、完全ではありません!」


 人を救うこともあるだろう。

 死んで終えば苦しみを産むこともないだろう。


 だが、それだけ。

 誰もが幸福な世を作るには、程遠い救い。


「しかし」


 スクイは否定しない。

 意味もないだろうということと。


 急な状況と、ホロの勢いに飲まれる。


「どうしろと」


「今から考えます!」


 永遠の時間がある。

 万能と呼べる力がある。


「さっすがホロちゃん!」


 前向きだね!と笑う生の神。


「それは」


 それこそが。

 スクイにとっての地獄で。


「意見は、禁止します!」


 ホロにとって。


「生きるとか死ぬとかそんなこと」


 天国なのだ。


「愛の前では、意味ないのです!」


 胸を張るホロに、スクイは何も返す言葉がない。

 呆気に取られているとも言える。


 少し、困った顔を浮かべ。

 やはり。


「ホロさんには、敵いませんね」


 そう笑うと、ホロは嬉しそうにまた抱き寄った。


「ふん」


 その様子を見て。

 死なんのかと、天使はつまらなそうに立ち去ろうとする。


「まあ、精々苦しめ。お前にはお似合いの地獄だろう」


「ええ」


 そうかもしれませんね。

 そう、少し納得し。


「ですから、私はあなたを置いて、死んだりしませんよ」


 そう。

 天使に告げる。


「その言葉で」


 天使は立ち止まり。

 苛立ったように。


「私が喜ぶと思ったか」


 そう言いながら。

 その場に座る。


「いいだろう。なら見てやろう。お前がどう神として生きるのか。見ものだな」


「やっぱり生きるのがいいですね!スクイさんもそう思いますね!」


 神と天使。

 2人から見られながら、


「世界を救う」


「はい!一緒に救いましょう!」


 そう笑うホロに、スクイは。

 いつものように微笑んだ。


 またも異世界に召喚され。


 スクイは、繰り返す。

 同じ地獄を。


「はい、世界に救いを与えましょう」


 自分を救う。

 誰かと一緒に。







【あとがき】

【これにて本作完結となります】

【最後までご覧いただき本当にありがとうございました】

【最後なのでこれを機にハート、星、フォロー、感想等本当にお願い致します】

【質問とかもあればお聞きしたいです(未回収伏線はないはず……)】

【詳しいあとがきを近況ノートに書くと思いますので、よければご覧ください】

【重ね重ね最後までお読みいただき本当にありがとうございました】

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邪教徒召喚 ー死を信奉する狂信者は異世界に来てもやっぱり異端ー ふましー @humashi_

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