間話「愛」

 ホロは、目を覚ます。

 体に違和感はあるが、痛みはない。


 スクイの魔法を側で受けた後遺症か。

 いくつか、スクイと同じくらいだろうか。


 歳をとっている。


 とはいえ。


「やっぱり」


 気づいていた。

 スクイは魔王の狂気に侵され、その狂気を暴走させられ、世界を滅ぼそうとしていた。


 だが、その中で。

 彼の中に消えなかったものがあったことに。


「殺さなかった」


 スクイは、ホロを生かした。

 それは、魔王と戦う前に逃したのと同じ。


 自分を遠ざけるため。


 最後に辛辣な言葉をかければ。

 自分を忘れて。


 1人で生きていくと。


「自分がいなくなって、幸せになれると」


 それがスクイの望んだ顛末で。


 もしホロが後を追うようなことを言わず。

 魔王を引き継がせる恐れがなければ。


 スクイはホロに、殺されようとしていたのかもしれない。

 あるいは魔王にならずとも、そうして。


 自分を悪人にして、ホロに功績を与えて死ぬことが。

 彼の計画の1つにあったのだろう。


 いずれにせよ、彼はどこかでホロの元を去るつもりで。

 それまで、育てるだけのつもりで。


 ホロのスクイの隣に一緒にいたいという想いは。

 叶わない。


「勝ち負けで言えば」


 戦いの結果は些細なことである。

 戦いは、お互いの譲れない何かのために起こる。


 スクイはホロの独り立ちという目的を。

 ホロはスクイの隣に一緒にいるという目的を。


 戦闘結果がどうあれ。

 最後に生きていたのがどうあれ。

 目的を果たせなかった方の負けであり。


 さらに言えばスクイと世界を救いたかったサルバと。

 世界を救う想いを託せる相手を見つけ、信仰する死に救われたスクイもまた。


 同じことが言えるのかもしれない。


 それを踏まえて。


「私の勝ちです」


 ホロは、手に持ったナイフを。

 自身の喉元に深々と突き刺した。


 スクイを忘れて。

 育ててもらった能力と作られた居場所で。


 幸せに過ごす。

 それが、ホロを救いたいと願うスクイの望みで。


 それを叶えることを、ホロは拒絶する。


 せめて、スクイより先に死ぬ。


 声の出せない死に際で。

 ホロは気づき、笑う。


 生も死も、くだらない。

 愛に比べればそんな物。


 取るに足らないことなのだと。




【次回最終話】

【本日更新】

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