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『邪教徒召喚』完結後解説

 自作『邪教徒召喚 ー死を信奉する狂信者は異世界に来てもやっぱり異端』が完結致しました。
 最後ということで、作中で触れられなかった構成や意図についてネタバラシというか、種明かしでもしていこうかと思います。

 人によっては無粋と感じるかもしれませんので、お気をつけください。

・魔王とはなんだったのか

 神々の負の遺産。神々の負の感情が集まって人間界に堕ちた物。
 神々はそれを「自分たちの失敗なので取り除いてあげよう」とも「人間界のことなのだから手を出さない制約では」とも考え、折衷案として魔王を倒せる勇者、聖剣、神聖魔法を人類に与えました。

 人類はそれを魔王を倒すことにしっかりと利用しませんでしたが、それは人類側の問題という理屈です。

 さて、その魔王は神々によって魔王城に封印されています。
 作中でも魔王は未完成であることが触れられていました。

 神々の様々な負の感情が入り混じっており、その狂気は答えを出していないという話です。

 この未完成な魔王ですが、ほとんど完成に近づいていました。
 元々の魔王は人間の形などしていない怨嗟の塊で、黒い泥が暴れているような、人語も解さない存在でした。
 それが次第に完成に近づき、作中のある程度対話もできる存在へと変わっていたのです。

 では魔王が完成すればどうなるのか、それはスクイが魔王となった時に起こったこと。
 つまり魔王城の破壊となります。

 そもそも神々から生まれた存在、完成し神々の権能を扱えれば神々の作った城も壊せるというわけですね。

 そして神々の狂気の答え、神々の負の感情の行き着いた1つの答えが「死は救いである」というもの。
 これにたどり着くと魔王は完成なのですが、作中では同じ思想を持つスクイと同化することで完成が早まっています。

 またスクイも、本来であれば自我をなくす魔王の侵食に耐えられていたのは同じ狂気を持っていたからですね。
 もっとも、逆にスクイの中の「死は救いではないのではないか」という部分は魔王に食い潰される結果となっていました。

 そして神々の狂気の答えと同じ狂気を持っていたからこそ、魔王の力、引いては神々の力をを十全に引き出すことが可能でした。

 やろうと思えば魔王の行った世界改変や、それ以上の神々の行いもできたはずですが、そこにたどり着く前に討伐された形です。
 勇者が3国で待って戦う選択をしていれば、そういった戦闘もあったかもしれませんね。


・章ごとのホロとの関係の変化

 章ごとのスクイとホロの最後の状態は、関係性を暗示しています。
 1章ではスクイがホロを背負い、2章ではホロがスクイを背負っており、ホロの成長や、ホロの存在によってスクイが救われていることを表しています。
 スクイは救えなかった者なので、自分に救われている存在が彼の救いなのですね(それがわかっていたからサルバはスクイがホロを殺していないと断言した)。

 3章では2人は並んで歩く。3章ボスをホロが倒したこともありホロがスクイと対等になった、場所は変わってもこれからも一緒に歩いていくことを意味しています。
 「並んで歩く」は西尾維新先生の戯言シリーズオマージュでもありますね。

 4章は背中合わせでホロが転移させられ終わり。明確な裏切り、断絶の意図ですね。
 そして最後は正面からホロが抱きついて終わり。大勝利エンドとなります。


・スクイは物語の主人公であり世界のラスボス

 この物語はもちろんスクイが主人公なのですが、この世界の主人公はスクイではなく、あくまでサルバとなっています。
 サルバという気弱だが優しい青年が勇者に選ばれ、苦節ありながら仲間を集め、悪を挫き最後には魔王を倒すという流れですね。

 その流れで見ると物語構造は非常にテンプレ的で、逆に魔王たるスクイのキャラクターも「暗い生い立ち」「悲しい過去」そこから得た「誤った正義観」といった一般的なものであることが見えてくると思います。

 あくまでこの物語の根っこは「一般的な勇者の物語を魔王を視点としたもの」ということですね。
 ホロの存在は「悪に救われる者もいる」といったところでしょうか。

 逆に勇者をテンプレ的にするために、勇者の仲間となる神聖魔法使いは全員女性とし、ハーレムにしました。
 第77話「正しさの道中」、第112話「最後の戦い」のサルバ視点が1人称なのも、サルバが主人公だからという理由です。


・スクイが召喚されなければ世界は滅んでいる

 スクイがいなければサルバは生きる意味を見つけられず、研究所か別の場所で聖剣の力を引き出せないため死亡します。
 魔王は完成すると魔王城を破壊でき、その場合勇者のいない世界は魔王によって滅ぼされます。

 またスクイが魔王にならなければ(追放されなかったり魔王討伐を放棄した場合)、魔王城を破壊した魔王をサルバが倒しますが、この場合ポリヴィティの住民は全滅します。


・世界を救おうとする者は苦悩し続けなければならない

 これはキャラクター造形のネタバラシですが、本作で「世界を救おうとする者」は3人出てきています。
 スクイ、サルバ、そして僧侶ですね。

 しかし世界を救うという行為は現実的に不可能で、「魔王を倒しても関係なく誰かはどこかで不幸になっているよね」「世界を救うということは目の前の巨悪だけでなく、この世界の1人残らずを笑顔にさせる必要があるよね」「世界を救おうとするなら世界を背負う覚悟がいるよね」という話で、普通の人はそんなこと考えもしません。
 実際3人とも、突出した能力がありながらも、誰かを救えなかった過去を持っています。

 その点スクイと僧侶は「救うべき人物を救えなかった者」であり、世界を救うことは「できなかった」存在として描きました。
 スクイは「死ぬしかない」と諦め、僧侶もまたどこかで「自分のようなものに世界は救えない」と諦めていました。
 そして世界を背負い救えなかった者を想い続けたからスクイは狂ってしまったのですね。

 サルバは同じく世界を救おうと考えながら藻掻き、苦しんでいる最中です。
 だからこそ彼がこの世界の主人公なわけで、彼がどうやって世界を救うのかは彼の物語の1つの課題と言えます。

 スクイや僧侶はサルバの未来のIFですね。
 スクイと僧侶は同族です。

 サルバがスクイを尊敬し、スクイと僧侶がお互いを気にかけていたのはそういった事情です。
 余談ですがスクイと僧侶は黒と白、スクイと勇者は闇と光で対比するキャラクター造形です。
 世界の主人公という話はありましたが、物語の主人公はあくまで主人公はスクイなので、スクイのキャラクターを深掘りする対比キャラ2人ですね。
 プロットでは勇者を女性にするものもあり、その時の造形が一部僧侶に引き継がれています。
 
 さて、サルバは世界の救い方をスクイとともに見つけたかったと語っており、スクイが本気で世界を救いたがっていることに気づいていました。
 「目の前の困っている人」よりも「過去に救えなかった人」に囚われる狂気こそが、ヒーロー性だったのかもしれません。

 また泥に塗れ希望を探す者なので、スクイとサルバの初遭遇では「スクイは泥に塗れサルバを助けようとする」。
 最終決戦では「サルバは泥に塗れスクイを助けようとする」
 という対比でした。

 世界を救おうとするものは苦悩し続けなければならない(答えのない問いに本気で向き合い続けなければならない)ので、サルバはこれからも悩み、スクイも死んで楽にはなれませんでした。


・スクイは同じ人生を繰り返している。

 本作『邪教徒召喚』は5章からなる連作となっています。1章10万字、単行本一冊程度をイメージして書いており、それぞれ「異世界学習編」「異世界抗争編」「異世界信仰編」「異世界戦場編」「異世界??編」となっております。

 この流れは、スクイの生前の流れと同じで、「学校」で人気をとるように頑張って学生時代があり、その後父親に殺されかけ両親を殺害。
 父親の「暴力団」事務所、母親の「宗教」組織を襲撃、その後「戦場」に飛んで死亡し、異世界に「召喚」されるというものです。
 つまり最終章は「異世界召喚編」ということですね。

 スクイは意図はどうあれ彼は悪人で、また「どれだけ頑張っても人を救えず、同じことを繰り返している」という意図がありました(地獄モチーフ)。
 そのため異世界に来ても彼は生前と同じ運命をなぞり、また誰かを救うことはできません。

 またも新しい人生を歩むことになったスクイ、その運命をホロは変えられるのか?というところがホロ視点の課題と言えるでしょう。


・死は救いたり得るか

 本作のテーマです。
 このアンサーは明確ではないものの、サルバは「死は本人の救いとなっても、死んでしまっては誰かを救うことはできない」と一部否定。
 ホロは「完全ではないことはわかる。だが明確な答えは持たない」というものでした。

 サルバはこの先世界を救う方法を探し、ホロはスクイを生かして救うことで、「死は救いではない」と否定することになります。
 物語は終わっても、生きる限り彼らは何かを成すことでしょう。

・作中最強キャラ

 作中最強キャラはスクイです。
 というと語弊がありますが、あくまで作中での最強となります。

 つまり「魔王不死ナイフ持ちスクイ」が最強で、ホロがスクイと戦わなければサルバは負けていたということですね。
 ただし、サルバは最後にスクイのナイフ速度を上回る剣術を見せており、作中以降成長したサルバとスクイであればどうなるかはわかりません。

・ラスト
 間話「愛」で解説しましたが、結局この物語と戦いの勝者はホロです。
 生きるも死ぬも、愛の前には無力、恋する少女には誰も勝てませんでした。

 一応解説すると、サルバはスクイを生きて救いたかったのですが、できず。
 スクイはサルバという自分以上の存在に託して信仰する死によって「苦悩し続けること」から解放。

 されたかと思いきや、またも異世界召喚。誰かを救うことにまたも囚われます。
 結果ホロの願いである「スクイと一緒にいる」だけが叶うことになりました。

 勇者は苦悩し続け、スクイは地獄に堕ち、ホロの願いは叶いました。
 上記の通り、ホロがここからスクイを救えるのかという話ですね。


・番外編構想

 感想等、あまり作品の需要が見られず没となりましたが、いくつか番外編構想があったので紹介します。

 IFエンド(別ヒロインルート)として
 ・メイルート「宿屋の主人エンド」
 ・レジスタ、ミュラールート「ギルド長エンド」
 ・死神ルート「流浪の旅エンド」
 ・フランソワルート「領主エンド」
 ・僧侶ルート「国王エンド」

 また完全番外編
 間章「ヴェンティ旅編」
 強力な神聖魔法使いをボスに、スクイと勇者が互いに気付かず共闘、現地ヒロインは踊り子という物語でした。
 劇場版をイメージしてプロットを立て、本編と同じく1章10万字、少し本筋と矛盾があってもいいか!で作ったものでした。

 以上色々と考えて書いてたんだよ集です。
 雑に書いたので漏れや読みにくい点あるかと思いますがご了承ください。
 あまりに突発なので、そのうち消すかもしれません……。

 他にも色々と小ネタはあるので、よければ下記リンクより読み返していただけると幸いです。
 最後までお付き合いいただきありがとうございました。 


https://kakuyomu.jp/works/16816700427566038272

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