最終話 別れと旅立ち

 翌日、ガルトン達は滞在していた、このパドンの村を出立する準備を始めていた。

 上司のカザーからの働きかけで、シルティの罪人認定を取り消しの話も約束された。

 この事から、シルティ本人が仕事を引き受けた元メルヴィン公爵領にある冒険者組合所へと出向いて、その処理をする必要ができた。

 つまるところ、ガルトン達が目指す最終地点の元メルヴィン公爵領へと、シルティとシャッコウを連れて一緒に向かう事になった。


 ガルトンの元へ元冒険者仲間のパドンが1人で訪れた。

 過去に失われた右足も元に戻り、いまではふつうに歩いている。


 「パドン、どうした?」

 ガルトンの元に訪れた、そのパドンの表情は、なぜか悲しい表情をしていた。


 「いや、お前にどうしても伝えたいことあってな……」


 「いったいなんだよ。だったら、そんな顔をするなよ」


 「すまない、とても言い出しづらくてな。……5年前、お前がこの村に来てくれたときの事だ。あの時は本当にすまなかった」


 「おいおい、その事なら、村のみなからも礼をいわれたよ。……なんでまた、その5年前の話を持ち出して、わけもなく謝るんだよ?」


 「……随分と経ってから、お前がこの村に来てくれた経緯を知ったんだ。冒険者組チームの仲間と、かなりも揉めたってな。……それが切っ掛けで、お前の有らぬ悪評が広まり、冒険者としての仕事ができなくなったって事もな」


 「なんだ、そんなこと気にするなって。俺が冒険者を辞めてから、すぐにいまの上司と出会ってダミラ商会へ入った、そして今に至るってことだ。……これは俺の選択したことで、お前が謝る事なんて何一つないぜ」


 「俺の村を守るために、お前は無理をした。……その無理を通しちまった事で、お前が冒険者を辞める切っ掛けを作っちまった。……本当にすまない」

 パドンは涙を流しながら、ガルトンへと頭を下げた。


 「おいおい、全て終わった話だろう。それにお前とは幼なじみで冒険者仲間だ。……ほら、いまの俺を見てみろよ。あの頃になかった様々な体験をしている。いまも冒険者と何ら変わらない日々は続いているんだ」


 「が、ガルトン……」


 「ほら、俺の前でそんな顔をするなよ。ティラにでも見られたら笑われるぞ。そしてへミリから平手打ちビンタが飛んでくる。……あ、泣かした俺にとばっちりは勘弁しろよな」

 ガルトンはそういってこぶしを前にだすと、パドンは応じるようにこぶしを付き合わせた。


 「なぁ、ガルトン。今度はいつ、この村に来る?」


 「それはわからないな。……正直、うちのダミラ商会は手広くやり過ぎて、この王国内を飛び出ちまった。今じゃ隣国でも商いをやってるからな」


 「お前の実力なら、どこへ行っても大丈夫だろう」


 「あ、その事だけどな、ティラに盛りすぎた話はするなよ。お前の娘は小さい頃からのまんま、いまでも俺が凄い人だと勘違いしてる節があるぞ」


 「あの再生治療魔法を使えるじゃないか。あの魔法を見せられたら、誰もがガルトンのことを大魔法使いやら大魔術師だって言いたくもなる」


 「とにかく変な噂は立てないでくれよ。とくに大げさに盛りすぎるな。そんな俺の噂が王立学園の先生方のお耳にでも届いちまったら、大変なことになる」


 「ガルトン、昔からそいう謙虚なところは変わってないな」


 「これは謙虚じゃない。……本当に自分の実力を知ったからこそ、それに見合った態度を示してるだけさ。……本当なんだぜ」

 ガルトンは王立学園に通っている間、黒髪の魔術師アリナを心から慕う人物たちを見てきた。

 その全ての者たちは英雄や王族という肩書きを持ち、またその者たち実力は、いまのガルトンが見上げても届かない場所にいる存在であった。

 ふと、王立学園で学んでいたときに起きた騒動を思いだして、笑みを浮かべてしまう。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 ガルトン達は準備を終えると、パドンの村を出立することになった。

 出立するガルトン達を見送るため、村人が多く集まっている。


 「が、ガルトンさん。……本当に行っちゃうの?」

 ティラは涙目でガルトンに話しかけた。その首にはガルトンがプレゼントした魔道具のペンダントが輝いていた。


 「ああ、この村にいつ来られるかわからないけどな。……絶対にまた来るよ」


 「ほ、本当に? ガルトンさん、絶対に来てよね!」


 「ああ、約束する。……その時、ティラの旦那と子供が一緒で出迎えてくれると、俺としてはうれしいけどな」


 「えぇ? ……え?? …………え」

 このガルトンの言葉を耳にして、ティラは魂が抜けたような表情をしている。

 その倒れそうなティラの身体を両親が支えていた。


 「へミリ、自分の娘にも良い旦那を見つけてやれよ。そのパドン旦那平手打ちビンタを振るって、この俺から奪った実績があるからな。いまのパドン旦那を選んだ、へミリの目は確かなものさ。それこそ誇っても良いくらいな」


 「いやだわ、変なこといわないでよ。……ガルトン、本当にありがとうね」


 「パドン、今回のような事件や問題が起きても対処できるように、この村には双撃舞人そうげきぶじん流の使い手が入れ替わって滞在してくれるらしい。とうぜん、ダミラ商会からも定期的に行商人がやってくる」


 「本当にありがたい。……感謝してるよ」


 「村のみなも仲良く元気でやれよ!」

 別れを終えたガルトンは、ズッドが手綱を握る箱馬車に乗って、このパドンの村を出立した。


 「うぅ……酷いよぉ……」

 ティラは遠ざかっていく、ガルトンを乗せた箱馬車を涙目で見送っている。


 「ガルトンはそういうヤツさ。……ティラ、ガルトンを見返すのなら、これから良い旦那を見つけろよ」


 「お、お父さん、そういうところ大っ嫌い!」


 「ねえ、アンタはあのシルティのことをどう思う?」


 「いまはガルトンと同じ根無し草の身だろう。……なんとなくだが、あの2人なら良いと思うけどな」

 へミリの言葉にパドンはそう答えた。


 「いまのガルトンに、あのシルティはお似合いよね。……わたしはそう見てるわ」


 「ガルトンに認められた、お前の目でそう思うのなら間違いないさ。……次に来るときはあの魔獣の背に、2人の間にできた子供を乗せてくるんじゃないかな」


 「それは十分にありえるわよ。……だったら、この村の外に魔獣のための小屋を建ててあげたらどうかしら? 普段は木材の作業小屋として使っても良いでしょ?」


 「それは名案だな。なぁ、ティラは……どうした?」


 「……お、お、お父さんも、お母さんも大っ嫌いよぉ!!」

 そのティラの大声は、ガルトン達が乗る箱馬車にまで届いた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 パドンの村を出立した箱馬車には御者のズッド、その隣にガルトンが座っている。

 「なぁ、シルティ。いい加減、そんなところにいないで下りてきたらどうだ?」


 「ここでいいよ。あたしの姿がシャッコウに見える場所がいいんだ」

 箱馬車の屋根の上にシルティは座っていた。

 身体には貰ったばかりのアリナシナ工房製の武具を装備している。

 その容姿のこともあり、箱馬車に積んであった作りの良い外衣マントを上から羽織っていた。


 ガルトン達の箱馬車の後ろには、シャッコウがついてきている。

 箱馬車を引く2頭の馬が魔獣であるシャッコウに脅えてしまうため、移動中はその死角となる後ろから、距離をとって追うような形をとっていた。


 「まぁ、この馬にシャッコウを慣れさせるには時間が掛かりそうだもんな」

 手綱を握るズッドは、この状況に然程さほど困った様子はない。


 「だからといって、俺の魔法で馬の危機感を薄くしちまうと、いざとなったときに困るからな。シルティ、元メルヴィン公爵領に到着するまで馬が馴れないまま、この状態が、ずぅと続くかも知れないぞ」


 「あたしは、それでもいいよ。……ねぇ、ガルトン、アンタは本当にあれで良かったのか?」

 屋根の上から、覗き込むように見下ろしたシルティが話しかけた。


 「いったいなにが?」


 「ほら、ティラの事だよ。……まぁ、2人の事だから口を挟まなかったけどさ。……あの子はアンタに本気だったよ」


 「それな、俺でもティラの気持ちはわかってるよ。……だけどな、ティラはパドンの娘だ。絶対に手を出しちゃいけないなんだよ」


 「それが、ガルトンの堅持けんじってヤツか……」


 「小難しい言葉を知ってるんだな。シルティ、歳は幾つだっけ?」


 「あたしの認識票タグをもってるだろ、それに彫られているよ」


 「……あ、つまり22才って事か。これ、本当に実年齢か?」

 ガルトンは取り出した、シルティの金属製の認識票タグに彫られた生まれ年から計算して年齢を知った。


 「なんだよ、行き遅れとでも言いたいのか? ……そもそも、ガルトンは幾つなんだよ」


 「俺は……べ、別に良いだろう。お前よりは年上だからな」


 「いまのガルトンは38だぞ」

 ズッドが代わりに答えてしまった。


 「なら、あたしの方が遥かに若いわ。……そりゃ、自分を年寄りくさいって、いうのも無理ないね。いまのあたしと15以上も離れていたら、しょうがないわ」

 年齢でマウントを取ったシルティは屋根の上からのぞき込み、その表情はニヤニヤしている。


 「なんだよ! ああ、俺はおっさんだよ。……くそ、これだから若いヤツは」


 「ほら、そういうところが年寄りくさいっていわれるんだぞ」

 隣に座るズッドがツッコミを入れる。


 「なんだよズッド。……そういえば、お前は幾つなんだよ!」


 「なんだ、ガルトンは知らなかったのか? いまの俺は33だぞ」


 「うっそだろ!? 俺より5つも若いなんて信じられるかよ! どうみたって40過ぎだろうが!!」

 特徴的な鼻がデカい、そして顔にシワのある表情からも相応の年齢だと思われていた。


 「ねぇ、その33って本当なの?」

 ズッドの年齢を聞いて、シルティも屋根の上から覗き込むようにしながら驚いた表情をしている。


 「なら、証明してやるよ。……ほら、これを確認して見ろよ」

 ズッドはダミラ商会の所員が持つ認識票タグを見せた。


 「……本当だ。俺がダミラ商会に入った年に入会している」

 ガルトンがダミラ商会に勤めたのは約5年前、その時のズッドの年齢は28才ということだ。


 「俺は、あのカザー主任より4つほど上だな。……それでも、ガルトンと同じ使いっ走りの下っ端職だけどな」


 「これウソくせぇ、雇われた入会時に10才以上誤魔化してるだろう。絶対そうだ、シルティもそう思うよな?」


 「あたしも、ガルトンよりは上だと思っていたよ……」


 「なんだよ、2人とも! これはウソじゃネェよ。俺は元から老けた顔をしていたから、10代の頃から個人で行商人をしていたけど、あの不景気のあおりを受けて失敗したんだよ。それからは落ち目になりつつあったダミラ商会に入って、いまも、こうしてしがない行商人として雇われているんだよ!!」


 シルティという新たな搭乗者と共に、この賑やかな箱馬車はつぎの目的地の村へと向かった。


 完


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼


 あとがき。


 この作品を最後まで読んでくださった、奇特な読者様へ。


 この掲載した作品は、自身の書いた元となった作品からの派生した物語です。

 時系列的には、その元となった作品の少し先の話となっています。

 元となった作中でも、この主人公のガルトンは、上司のカザーと一緒に登場しています。

 作中で語られている黒髪の魔術師アリナと出会ったこと、それに関わった状況などは同じに書かれています。


 この作中で語られている、世界観の設定や会話の中で出てくる、名前だけで未登場の人物はすべて書かれています。

 そのひとつ、5年前にパドンの右足を失った事件の真犯人は、この話の時点ですでに凄惨な最後を迎えています。


 元となった作品から、このガルトンを抜き出したのは中年で元冒険者という設定があったからです。

 ガルトンの登場話数はとても少なかったので、その分、話の設定が盛り込めるので使いました。


 ――この後の展開――

 5年前、ガルトンが有らぬ悪評を広められ、冒険者を辞める切っ掛けとなった元冒険者組チームと再会します。

 目的地となる元メルヴィン公爵領へと近づくにつれて、シルティの心境に変化が起こります。

 ようやく目的地に着いたガルトンを待っていた思わぬ展開、そしてシルティは自身の身の振り方について決断します。


 もし、この作品を読まれる方が多くいらっしゃいましたら、続きを書こうと思います。


 *元となった作品はカクヨムには存在しません。

 元となった作品は自身のオリジナル作品のため、この物語が盗作、また二次創作ではありません。

 元となった作品は、他のサイトにて現在も3年以上、非定期での投稿をしておりますが、最底辺レベルの評価という、完全に見捨てられて埋もれている作品です。

 今現在もダラダラと読まれることのない作品を書いている経験上、この作品をはやく短く終える事にいたしました。


 おわり

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使い走りの元冒険者 有無名(うむな) @neru-neru

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