とりあえず死ぬか

 

 その日、人類の半数が滅んだ。


 大魔王アザトース並びに人類の祖アドム率いる女神イージス殺すマン達との戦闘により、神聖皇国以外のほぼ全ての国が大打撃を受けた。


 特に大国の惨状は酷く、どの国も立て直しが不可能な程にまで滅茶苦茶にされてしまっている。


 もちろん、神聖皇国も無傷ではない。


 首都はほぼ崩壊し、かなり多くの死者を出していた。


 悲しみに暮れる世界だったが、それでも希望はある。


 異界から来た勇者光司と神聖皇国軍、そして世界最強の傭兵団の尽力で大魔王アザトースを完全消滅させ、世界は再び光を取り戻したのだ。


 光司が最後にはなった一筋の光は世界各地で確認されたらしく、こちらに向かっていたマルネスや体が大きすぎて移動できず待機をしていたアスピドケロンなんかも見たらしい。


 あれは凄かったな。


 世界を覆う光とともに邪悪なる邪神は一刀両断され、気づけば大魔王アザトースは真っ二つに割れて消滅していた。


 あれほどの一撃が打てるのであれば最初から使えよとは思うが、数時間力を貯めないと打てないらしいので仕方がない。


 光司や龍二など、大魔王アザトースと戦った神聖皇国軍は英雄として凱旋し、今頃は世界を救った英雄たちと褒め称えられていることだろう。


 多くの人を失ってしまったが、それでも人類は勝利したのだ。


 無論、それは俺達にも言えることであり、俺は失ってしまった恩人の遺産を見つめる。


 「........借りばかりが増え、それを返し切る前に居なくなるなよ。なぁ、アンスール。お前がいなければ、10年前に俺は死んでいたんだぞ?」

 「アンスール........バカ........」


 片腕を失った団員服。


 蜘蛛の糸で編まれ、生半可な攻撃は全て防ぐはずのローブには血の跡が着いている。


 戦いが終わり、団員達の回収をしていた時だ。


 アンスールとは似ても似つかないアラクネが、半裸で泣きながらこのローブを持っていた。


 嫌な予感がして降りてみれば、アラクネに進化したベオークが顔をぐしゃぐしゃにしながら俺達に“ごめんなさい。ごめんなさい”と謝るのみ。


 これで全てを察した俺達は、何も言えず。


 泣き崩れるベオークを優しく抱きしめるだけだった。


 「母様........ははさまぁ........ごめんなさい........ごめんなさい........」

 「アンスールぅ........グスッ」

 「Hey、アンスール。消えてなくなるのはちょっと違うんじゃないですか?お礼も謝罪もさせてくれないなんて、悲しいです........」


 特段アザトースと仲の良かったベオーク、イス、メデューサは、アンスールの墓の前で泣き崩れる。


 得た物はあったが、失った者があまりにも大きすぎた。


 「すまない。私がミスをしなければ、こんなことにはならなかっただろう」

 「気にするなマルネス。お前はちゃんと仕事をしてくれたんだ。魔王や原初、更には管理者までもを一度に強引に転移させれただけでもすごいんだよ」

 「........君が私に気を使うとはな」

 「気を使ったわけじゃない。それに、俺達はちゃんと死ぬことも覚悟していたんだ........悲しみはあるけどな」

 「そう........だな。お師匠様が亡くなった時、残された時間で覚悟を決めていたが悲しかった。親しい者の死は、どれだけ覚悟しようとも悲しいものだな」


 マルネスはそう言うと、アンスールの墓の前に膝まづいて手を組む。


 アンスールの墓はイスの世界に建てた。


 ここならば誰も邪魔できないし、イスが死なない限りはこの世界に立ち入れるのはイスの許可がある者のみ。


 それに、イスの事を俺達の次に可愛がっていたのだから、アンスールも本望だろう。


 「アンスールさん........さようなら」

 「フハハ。親しい者の死というのは悲しいものだ。例えそれが、裏切り者だとしてもな。アンスールよ。どうか安らかに眠ってくれ」

 「私達のような吸血鬼の始祖に願われても困るでしょうけど、あなたのことは親友以上に思っていたわ。どうか安らかに........」

 「「「「........」」」」


 吸血鬼夫婦や獣人組、までもが静かに目を閉じて頭を下げる。


 この傭兵団の中でも最も働き者で、俺たちの食事を作ってくれていたアンスール。


 誰からも好かれていた彼女の死は、言葉では言い表せないほどの悲しみを背負っていた。


 今後、俺達はアンスールの十字架を背負うだろう。その時は、俺達を見守って欲しいものだ。


 「我が厄災級魔物の死を悲しむ日が来るとはな。長生きしてみるものだ」

 「お前に悲しむ心なんてあったのか?ファフニール」

 「リヴァイアサン。場を弁えろ」

 「純粋な驚きだ。私だってちゃんと理解しているよ」

 「........」

 「........関わりはほぼなかったが、私達の我儘に付き合わせてしまったんだ。せめて安らかな死後の世界を迎えることを心の底から祈るよ」


 あのファフニールですら、今日は大人しい。


 相変わらず言ってることは空気が読めてないが、この口調は明らかに悲しみが込められていた。


 しばらくアンスールの死を追悼し、イスの世界から一旦出ていく。


 開けた平野はグチャグチャに乱れており、ここで戦いが行われた訳でもないのに戦いの跡のようになっていた。


 「それで、君はこれからどうするんだい?邪魔者は消え去ったし、人類も半数以上が滅んだ。その気になれば世界征服だって夢じゃない」

 「そんな気はねぇよ。世界征服したいんだったら、最初からやってる」

 「幸い、君が警告していたお陰でバルサルの人々はほぼ無傷だ。あそこで余生を過ごすのかい?」

 「いや、そんな気にはならないね」


 マルネスの言う通り、戦いが起きると伝えて準備させていたバルサルの人々(主に孤児院)はほぼ全員無事だ。


 小さな村であっても被害が大きかったこの戦いの中で、唯一人的被害が少なかった街と言えるだろう。


 その代わり、建物はほぼ全部倒壊され、まともに暮らせるかは怪しいのだが。


 俺の教え子達もどうやら無事らしく、リーゼンお嬢様やブデ達も被害こそあったものの生きている。


 「そう言うマルネスはどうするんだ?」

 「私は死ぬまでこの子達と一緒にバルサルの街の復興に勤めるよ。あそこはかなり居心地が良かったんだ。恩返しの為にもね。それに........そろそろ私も正当な歴史の中を歩む時間さ。寿命を迎えて死ねるように頑張るよ」

 「そうか。俺の教え子達の面倒を見てやっくれ」

 「........君は来ないのか?」

 「俺達を見てみろ。人の面倒を見てやる連中に見えるか?」

 「........まぁ、見えないねぇ」

 「だろう?ちょくちょく顔を出すには出すが、暫くは人前に出てこないと思うぞ」


 復興の手助けをするのもありだが、俺達の拠点は既に崩壊。


 これを機に、拠点を移すのもありと言えばありだ。


 そして、その拠点は既に決まっている。


 「俺たちの様な圧倒的な力を持つヤツらが今の世界で闊歩するのは宜しくない。しばらくはみを潜めて、世界の行く末を見届けるよ」

 「そうか。もしバルサルに立寄る事があれば、顔を出してくれよ?老けた私が見られるだろうからな」

 「ハハッ、その時はロリババアから本物のババアに昇格だな。楽しみにしているよ」


 俺はそう言うと、マルネスに握手を求める。


 出会いは7年近く前。今となっては共に戦った戦友だが、あの時はお互いに煽り合うだけの関係だった。


 これはこれで悪くない。また逢いに行くとしよう。


 「では、また会おう。世界を救った英雄さん」

 「それは俺たちじゃなくて光司に言ってやる言葉だ。じゃあな。また会おう」

 「バイバイ。精々長生きしてね」

 「ハハハハ!!カノンからそんな言葉が聞けるとは笑えるな。精々長生きしてみるさ。この世界を私の手で建て直してやろう。行くぞ、みんな」


 マルネスはそう言うと、仲間達を率いてバルサルに向かって消えてゆく。


 俺達はマルネスが見えなくなるまで静かに見守り、マルネスガ消えてから俺はゆっくりと口を開いた。


 「さて諸君。我々はしばらくの間この世界から消えるとしよう」


 人類はこの後再び発展していくだろう。


 失われた技術や伝承などもあるだろうが、それでも立ち上がれるのが人類というものだ。


 そして、その復興中の世界に俺たちの居場所は無い。


 圧倒的な力を持った者というのは、存在するだけで驚異となりバランスブレーカーとなる。


 ではどうするか?


 世界が再び光を取り戻すまでの間、俺達は消えるのだ。


 何も言わない団員達に向かって俺は悲しさを紛らわせるようにニッと笑うと、かつて暗殺計画を立てられていた時に言い放った言葉を言う。


 俺達は死した亡霊。


 今この時、俺達は死ぬのだ。


 「んじゃ、諸君。とりあえず死ぬか」


 また世界が面白くなるその日まで、俺達は死と霧の世界で死ぬとしよう。





 完




というわけで、“とりあえず死ぬわ〜追放されない為に努力していたら、クラスメイトに暗殺計画を立てられたんだが?〜”は完結となります。

色々と言いたい事がありますが、滅茶苦茶長くなりそうなので簡潔に。

まず、約二年、ご愛読ありがとうございました。

個人的にはそれなりに綺麗に纏まったと思ってます。

アンスールが死んだり、最後の一撃が光司だったりとモヤっとするところはあるでしょうが、私はこれで満足です。

さて、本来ならこの後ifルートを書く予定でしたが、アンスールの死を描いた際に結構メンタルやられたので書きません(仁と花音以外ほぼ全員死ぬので)。

ifルートは簡単にいうと、花音が仁を独占する為に仲間もぶち殺します。

読みたく無いでしょ?私も書きたく無い。


結局少し長く書いてしまいましたが、ここら辺でさようならとします。

本当に二年間もの間読んでくださった読者の皆々様方、応援ありがとうございました。また、何処かの物語でお会いしましょう。

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とりあえず死ぬわ〜追放されないように努力していたら、クラスメイトに暗殺計画立てられたんだが?〜 杯 雪乃 @sakazukiyukino

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