厄災戦争 大魔王アザトースvs世界15

 

 大魔王アザトースと俺が戦い始めてからどのぐらい時間が経ったのだろう。


 日は落ちてないからまだ数時間程度だろうが、体感では1週間近く戦っている気がする。


 俺は魔導崩壊領域ブラックボックスを使い続け、ようやく治った筋肉痛が再び発症するなと思いながらもアザトースの攻撃を捌き、攻撃を加え続けた。


 それにしても、堕ちた神ですらここまで強いというのに本物の神相手にアドムはどうやって勝つつもりだったのだろうか?


 俺の能力が無効化され、殴ったり蹴り飛ばしたりしてもピンピンしているこの化け物に勝ったんだろ?女神イージスは。


 そんなヤツにリベンジをしようなんて、本当に滅茶苦茶だな此奴。


 勝てない勝負を挑むほど馬鹿なヤツは居ない。


 それを行うのは、英雄か蛮勇だけだ。


 俺にすら勝てなかった奴なのだから、アドム達は後者だな。


 「そろそろ死ねよ。何発殴ってると思ってんだ」

 「それはこちらのセリフだ。なん発攻撃を当てたと思っているのだ?人間と名乗るならば、一撃でぺしゃんこになるべきだろう?」


 お互いにお互いの攻撃がさほど効いていないため、軽口を叩きあって精神的な攻撃を繰り出す。


 最初こそ感情的になっていたアザトースだったが、何時間も煽りあいをしていればいやでも冷静になれるだろう。


 最初程、感情の起伏は見られなかった。


 で、光司は何時まで力を貯めてるんだ。


 俺の能力が効かないのはともかく、光司の異能は女神イージスが大魔王アザトースを殺すために作った能力。


 俺も戦いのさなかであれこれ試しているが、どれも効果が薄い。


 これだから“正規の手順以外では無敵ギミックボス”は嫌なんだよ。ズルもイカサマも通用しない敵というのは、戦っていて嫌になる。


 俺はアザトースの迫り来る触手を軽くはじき飛ばすと、お返しとばかりに蹴りをその体に撃ち込む。


 フワッと体が浮き、200mほど吹っ飛ばされたアザトースだが、まるでダメージが無いのか余裕綽々であった。


 多少は攻撃が聞いているとは思うんだけどねぇ。誰かアザトースのHPバーでも表示してくれないかな?


 1でもダメージが通っていれば、勝てるのだ。


 持久戦は嫌いだが得意。


 どこぞのバカを殺すために四年も我慢出来るのだから、根気はある。


 「チッ、あの人間に何かを任せているのは分かっているが、貴様が邪魔すぎて妨害に行けん。分身体もあの忌々しき原初の力を操るダークエルフによって消されるし、本当に上手くいかないな」

 「シルフォードのことか?いい配下を持っただろう?お前とは違って、人を見る目はあるからな」

 「本当に邪魔くさい。そのまま死ねばいいのに」

 「邪魔はお前だクソッタレ。さっさと死んでくれよ」


 俺が光司に必殺の一撃を頼んだのはもちろんアザトースも知っている。


 その邪魔をするために分身体とやらをこっそり出しては、光司の邪魔をしようとしていたが、我らが団員がそれを許すほど生優しくはない。


 何があったのかは知らないが、滅茶苦茶強くなっているシルフォードが中心となって厄災級魔物やダークエルフ、更には迫害されてきた白色の獣人が分身体を消してくれているのだ。


 大魔王アザトースvs世界。この世界を守るために、人類だけでなく世界中のもの達が立ち上がっているとも思えるな。


 団員達のおかげで、俺はまた命懸けの切り札を切らずに済んでいる。


 もし、切り札を切る事があれば次はマジで死ぬかもしれんしなぁ。


 そんなことを考えながら魔王の相手をしていると、背後で強大な魔力を感じ取る。


 感じ取ろうと思わなくとも感じられる聖なる魔力。先程到着した二人の堕天使の力を借り、数時間かけてようやく成功したようだ。


 「おせぇぞ勇者め」

 「不味っ........」


 アザトースも本能的に死を感じたのか、初めて焦りを見せている。


 どうやらあの全てを大魔王アザトースにぶつければ、俺たちの勝ちが決まるらしい。


 ならば、俺のやることは1つ。


 ありとあやゆる全ての力を使って、勇者の一撃をアザトースに当てるのだ。


 「総員!!勇者の援護に回れ!!この一撃が、世界を救う!!」


 俺は腹の底から大声を上げると、団員だけでなく神聖皇国軍までもが動き出す。


 いかなる犠牲を払おうとも、この一撃は必ず当てる。


 そう覚悟した彼らの歩みはとても頼もしい。


 「僕に続け!!魔道士達は後方から援護!!休みは貰ったんだ!!死ぬ気で働け!!」

 「お前ら!!仕事の時間だ!!あのバカにいい所を全部持ってかれたら私達の顔が立たんぞ!!」

 「援護はおまかせを。私が大地を割りましょう」

 「聞いたな!!団長殿の命令だ!!死ぬ気で遂行しろ!!」

 「私達も行く!!分身体は全部私が消すから、足止めを!!」

 「もうあいつが勇者なんじゃね?まぁいいや。それでこそ我が友人だからな!!」

 「私達も行こう。この世界に終止符を」

 「堕天使だとはいえ天使だからね。私達は人の味方だよ」


 一気に大魔王アザトースに向かって迫り来る世界。


 アザトースは、何とかしてその場から離脱しようとするが、それを俺が許すわけが無いだろう?


 「どこに逃げるんだ?大魔王様」

 「仁、すごく悪い顔してるよ」

 「ようやく全てが終わるんだ。悪い顔の1つでもしたくなるさ。ましてや、自分達の価値が揺るがないと思っていた奴が絶望してくれるなら」

 「いい性格してるねぇ」


 周囲に魔法をばらまこうとする隙を付いてアザトースの脳天に拳を叩き込む。


 花音も無数にある触手全てに鎖を縛り付けてアザトースの逃亡を防いでいた。


 「クソがぁぁぁぁぁぁ!!私の邪魔をするな!!この劣等種どもが!!」


 それでもアザトースは暴れ続ける。


 周囲に炎をばら撒き、更には暴風まで作り出して炎の竜巻まで作り出した。


 神聖皇国軍の何人かは炎に飲み込まれて死ぬだろう。だが、それでも歩みを止めてはならない。


 この一撃に全てがかかっているのだから。


 「顕現世界。死と霧の世界ヘルヘイム


 刹那、荒れ狂う炎が神聖皇国軍を燃やす中、氷の世界の女王は帰ってくる。


 一瞬にして炎は凍てつき、その力を持った小さな女王は俺の横に降り立った。


 「世界を調整するのに手間取ったの。遅れてごめんなさいパパ。ママ」

 「いい子だイス。後でいっぱい褒めてやるから、今は光司のサポートに回れ」

 「いい子ね。後でいい子いい子してあげる」

 「分かったの!!」


 最後の最後で登場とは、我が娘ながらよく分かっている。


 いい所取りはちょっとモヤッとするが、それでこそ俺たちの娘だ。


 俺がイスの立場なら、この最後の瞬間に現れて手助けするだろうしな。


 暴食の魔王と戦っていた時のように。


 新たな厄災級魔物の登場は、アザトースにとってかなりの痛手。


 既に詰みの状況なのに、更に戦力が来てはどうしようもない。


 「ぬゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」


 それでもアザトースは諦めない。悪あがきの良さだけは、魔王に相応しいと言えるが、それもここで終わりだ。


 「────────そうだろう?光司」

 「大魔王アザトース!!ここでお前も終わりだ!!」


 眩しく光る剣を高く振り上げ、アザトースの上に飛ぶ光司。


 聖なる光は世界を照らし、2500年もの長きに渡る因縁を取り払う。


 「聖剣“世界を照らす聖なる刀ソヤハノツルギ”」


 かつて俺達が笑った聖剣(刀)が振り下ろされ、アザトースの体を一刀両断しようとする。


 が、アザトースも元と言えど神。


 気合いでその一撃を身体で受け止めた。


 「ぬゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 拮抗する両者。


 あまりにも絶大すぎる魔力の衝撃により、周囲は再び吹き飛ばされて大地はえぐれる。


 俺も吹き飛ばされそうになったので、慌てて能力で盾を作るとその裏に避難した。


 「この世界は!!この先の未来は!!僕達が守る!!お前は消えろ!!大魔王アザトース!!」

 「女神イージスの勝手によって管理されるこの世界は意味が無い!!この我が幻想郷を作りだす!!」


 すごく盛りあがっているところ水を差すようで悪いが、今どきこんなにも熱いラスボス戦はそうそう見れないな。


 ちょっと壮大な映画を見ている気分だ。


 「お前は勇者だよ。光司」


 俺がそう言うと、目が開けられないほどに周囲が光り輝き、その光は世界を包んで全ての終わりを告げるのだった。





 次回最終話

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