概要
武蔵野のムラサキは、今も昔もここに在る
その昔、武蔵野の地には「紫草」という植物が自生していた。その根を使って布を染めると、それはそれは綺麗な紫色に染まるんだそうで、高貴な植物として大層重宝されていたという。今では失われた武蔵野の自然のひとつである。
「でもね一度だけ、アタシはそれがたくさん咲いているのを見たことがあるのヨ」
小学六年生の朱音(あかね)は、祖母のそんな言葉を確かめるために、妹の紫音(しおん)と一緒に荒川の河川敷まで来ていた。夏が過ぎた九月の空の下、日はもう短くなっている。
「お姉ちゃん、もう帰ろうよ。きっとデタラメだって」
「探してみないと分かんないだろ」
「もう、」
果たして祖母が話したことはデタラメなのか、それとも……