i(アイ)の二音と一字にこめられたもの

 旦那様、と卑屈な調子で呼びかけ、語り始める冒頭、良いですね……。まず思い浮かべたのは太宰治『駆け込み訴え』です。

 内容についてはネタバレに関わるので省略しますが、共通する登場人物とモチーフがあり、かつ、こちらは『駆け込み訴え』よりもう少し後の時系列から始まるお話。

 この作品で好きなのが、彼による「信仰」の解釈パートです。
 自分がそこにいて相手がいる、それは信じるも信じないもない。ただ知っているというだけの知識でしかない。
 だが、自分がここにいなくとも、いないじゃないかという不安に打ち勝ち、いると信じるのが「信仰」である……と。

 その理屈でもって、自分が愛するものが損なわれたという筋は見事な論理でした。

 私も聖書を聞きながら育った者のはしくれなのですが、キリストはしばしば、己が神の子であるか疑い不安になったそうです。そういうところも含めて、彼はこの人を愛したのでしょうね……。