グクスよ、お前はそれを抱えたまま、老いさらばえてゆけ

 今ではない時、ここではない場所――遙かなる古代世界に、黒き岩を信仰する三つの部族がいた。狼の部族で一番の狩人・ニザはある日、黒き岩の霊を宿す女を殺すよう命じられる。ニザが出会った黒き岩の霊を宿す女・アムヤとは……。

 巨岩信仰、人の中の神、人にとっての神を巡る物語。主人公のニザ、アムヤ、そして鰐の部族から送られた刺客・グクスの三人が織りなすドラマは非常に読み応えがあります。

 あまり余計な説明を入れず、それぞれの所作や反応などで、そのキャラクターがどんな人物かを血肉を持って伝えられる描写力もまた素晴らしい。
 屈強で実直な狩人のニザ、「からっぽ」のアムヤ、笑顔の中に一物抱えたグクス。どれも大変魅力的で、かつその配置の仕方が物語を一段深くしています。

 この作品、大筋のプロットとしては「ニザとアムヤ」だけで手短にまとめることも可能と言えば可能なのです。その場合、結末も少し違ったものになったでしょうが、ニザの行動とアムヤの運命そのものは変わらなかったことでしょう。

 しかし二人から三人、グクスという男が加わることで、こぢんまりとしすぎない奥行きが生まれており、このセンスに確かな地力の高さを感じました。
 これについては語りすぎず、とにかく作品を読んでいただきたいですね。無情な結末と物語のその後もまた寂寥感があり、長く余韻が残る作品でした。

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