予感は、一週間前から

戌井てと

第1話

 それは静かに、けれど急速に盛り上がりを見せていく。2月14日、バレンタイン。関係ないと装い、実はめっちゃ気にしている。


「祐大、好きな人は? 気になる人くらいはいるっしょ」

「いないから」


 本当にいないんだから、それ以外に答えようがない。

 日直で残り、放課後の今日。下駄箱のとびらを開けると、四つに折られた紙が入っていた。

 紙は、A4ノートを正方形にカットしたものと思われる。断言する理由は罫線があるのって、ノート以外に見たことないってだけなんだけどさ。


「……紙」

「え、なんて?」


 そうだ、友達がいるんだった。内緒にしておこうなんて思ってないんだけど、気づいたら制服のポケットへ入れてた。


 駅で友達とは別れ、電車が来るまでの間。ズボンのポケットから先程の紙を取り出す。

〝一年A組 木葉 真衣です〟

 ……誰だろう、全然知らない。女子とは挨拶をする程度で、委員の仕事だってお互いに範囲を決めて、それ以上はやらないし。

 ていうか、女子なのか? まるい字は女子でいいか。名前の響きかわいいし、女子だよね。

 学年に名前、なんとも丁寧な。なんて物思いにふけっていたら、電車は来ていた。




 そうじ当番で残り、放課後。

 昨日と同様に、四つに折られている、小さな紙。

〝雪、つもりましたね〟

 すみっこのほうには、雪だるまの絵が描かれてあった。イタズラにしては可愛いので許せる。顔もわからない女子。今知っている事は、同い年と名前だけ。




 雪の影響で電車が遅れた。

 この日は少し寂しく放課後を迎えた。

 3日連続にもかかわらず、四つ折りにしてある紙。字の形も3枚とも同じで、同じ人がしているんだと判断材料が揃う。

〝家の庭で作ったものです〟

 ただ少し違ったのは、写真が紙のそばに置かれてあったこと。シャッターをきればその場で現像されるカメラで撮ったかな? 雪だるまが映されてあった。

 遠くで生徒や先生の声はしても、下駄箱の所には僕以外に人はおらず、まるい筆跡、相手は女の子。その条件が寂しかった心を満たしていった。




 プレゼントを後ろに隠して、赤面するヒロイン。下駄箱にほぼ毎日入れている子も、恥ずかしそうにしているのかな。


「なーに祐大くん、マンガ読みたいの?」

「いやぁ……別に。あっ、参考程度に聞きたいんだけど」

「なに?」

「女子って大事な日の前とかって、何考えてる?」


 昼休み、マンガを囲む数人の女子グループへ質問をした。


「出掛ける用事なら、服に悩むよね。何を着ていこうかなって」

「なるほど」

「デートがあるの?」

「ないない」



 あえて残る、今回の放課後。

 僕以外にいないのを確認し、下駄箱を開ける。


「ほら、あった」


 こうも続くと慣れてくる。そして、

〝今日は全部の授業で、先生に当てられちゃいました〟

 突然のことに困ったんだと思われる文に、大人しい性格なのかなって、想像していく。

 朝はなにも無く、体育とか授業で下駄箱の中を見る機会はあるけど変わったことはない。全ての授業、帰りのHRが終わり一斉に下校する頃、紙はとびらの隙間から入れられてあるんだろう。

 内容はどうであれ、なんとなく、楽しい。




 ある事は確実だと思っていたから。

 開けて、紙のないことへの物足りなさ。寂しさ。


「──あのっ!」


 マンガを囲む女子グループの後ろから読んだ、少女マンガの展開。シチュエーションが目の前で、僕が相手っていう現実。


「受け取って、くれますか?」


 全然、目、合わないなぁ。マンガみたいに顔がまっかとか、よく見えない。相手の視線が迷うのはマンガも現実も同じっぽい。そして、それは、僕にも移るっぽい。


「あー、っと……手作り、とか?」


 なんとか口から出せた言葉は、顔を横にふる動作で返される。


「かたち……失敗しちゃって」


 それくらい気にしないのに、って言うのは正解なんだろうか。少女マンガを読めば、喜ばれる言葉を言えるんだろうか。


「それも、もらっていいですか?」

「え?」


 相手の顔がパッと上がる。くっきり二重、やっと顔が見れた。


「1日延長で、手作り、期待してもいいですか?」


 すきという、たった二文字に、いろんな思いが渦を巻く。言いたいし、聞いてほしい。

 次は僕から言うから。



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