君の夏休みに雪は降らない
きょうじゅ
八月三十一日の夜
海で泳いだあとってなんでこんなに気だるいんだろうとかそんなどうでもいいことをつらつらぼんやりと思いながら、ボクはうすくぬるくなったカルピスのグラスにささったストローをくゆらせ、そしてやっぱりぬるくなっているはずのスイカをものうげにかじるイトコのショータの横顔から視線を外さない。
八月三十一日というのは日本では夏休みが終わる日。ここからははるか遠く南半球にあるボクのスクールの冬休みはまだ終わらないけど、こちらの都合と言うものもあるからして、今年の日本滞在は終わりだ。ボクもママに連れられて、明日の朝早くにここを発って国に帰る。
ボクは二つの国の血を引いて生まれた身だけれど、ママはもともと日本人でこの家で生まれ育っていて、ショータのパパはボクのママのお兄さんに当たる。だからイトコである。
「ショウ、リョウ、そろそろ晩飯の時間やき、片付かんから風呂さ一緒入ってき」
と、言うのはばんちゃ、ボクの国の言葉で言えばグランマ。
「んー」
と、何も気にする風がないショータは、居間に短パンと下着を脱ぎ捨てて風呂場に行ってしまった。
ボクは少し心のうちで迷う。ばんちゃは当たり前のことみたいに言い出したがボクがショータと一緒にお風呂に入るのは一昨年来たとき以来である。ばんちゃにとっては二年はささいな時間かもしれないがボクにとっては大変な時間だったのである。はえてくるし。毛とか。ショータはまだみたいだったけど。
でも別に嫌というわけではないので、ボクも脱衣所まで行ってから脱いで、そしてショータの前で裸身を晒す。もじもじ。
「どないしたん? リオ」
「な、なんでもないよ」
パスポートの表記ではLeonaと書く。「リョー」も「リオ」も正確な発音にはほどとおくて、むりやりカタカナにすると「リオウナ」が近いのだが、日本人には発音が難しいから仕方ない。なお、れっきとした欧米英語圏の女性名である。
初めて見るわけではないとはいえ、やっぱり、男の子の身体とボクの身体は違うんだなって、どうしても意識してしまう。ショータの視線は動かないし気にもとめてないみたいだけど、おっぱいだってちょっとはふっくらしてきたんだぞ、これでも。触ると痛いし。
湯船につかる。ただの日本の家族風呂なので、いくら子どもでも二人で入ればそりゃあ距離が近い。息づかいすら感じられそう。ごめんなさい神さま、ボクちょっといやらしい気持ちになったりしています。女でよかった。いや、男の子だとバレてしまうことになるし。何故かは言わないが。
「リオ、顔が赤いぞ。もうのぼせたのか?」
「いや、これはその……いやうん。そうみたい」
そうだね、のぼせてるんだよ、もう君にずっとね。
次に来るのはまた二年後で、そのときにはもう一緒に風呂には入らせてもらえないだろうな、という思いを噛みしめつつボクは冷たいシャワーを浴びるのであった。
君の夏休みに雪は降らない きょうじゅ @Fake_Proffesor
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
雪祭り/きょうじゅ
★29 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます