3問目


それでは、問題です。



 『トンビに油揚げを攫われる』とは、自分の大事なものや手に入れられると当て込んでいたものを、不意に横から奪われることの例えですが、同じ意味を持つ『◯◯に釜を抜かれる』という言葉があります。

 ◯◯に入る言葉を答えなさい。



……。



「……おい、ところで秋海棠しゅうかいどうとか言ったよな? ナニか嫌な既視感があるんだけど紬衣、どういうこと?」


「紬衣ちゃん先生と僕は、出会うべくして出会った運命なんです」


「……はッ?! そんなん聞いてナイし」


「実はデスね。なんと! 奏士そうしくんは、冬馬とうまくんの従兄弟なんですよ。って、壱太くんは知りませんよね。冬馬くんとやらは、過去にも現在にも友達とは無縁のわたしが高校の時、唯一仲良かった後輩なんです。こんな偶然があるんですねって、びっくりしちゃいますよね?」


「え〜心外だなぁ。偶然じゃないですよ。初めて紬衣ちゃん先生を知ったのは、冬馬くんの家にある紬衣ちゃん先生でギッシリのアルバムを見た時です。あの日、そのアルバムを全部見るまでもなく分かりました。たったひと目見たその瞬間から、僕たちの運命的な出会いは決まっていたんですよ。ね? センセ」


 なんだよ偶然くらいで嬉しそうに笑う紬衣は可愛いって違うイヤ違くないが俺にとっては全然嬉しいとかナイから紬衣でギッシリのアルバムとかも初耳だけどソレより偶然って言ってるのにアルバム見ただけで運命とかにすり替えてくるとか奏士くん恐ろしい子って思わず白目剥いちゃったからってナニこの既視感までぐぬぬ紬衣の重厚なる運命のイッパツめ響かせるのはベートーヴェンか俺の二択しかないつーの。

 しかし、よりによって紬衣に目を付けるとか秋海棠家に伝わるの血の呪いとか変態趣味かソレどっちがどうとかって考えようによっては微妙だけど。


「紬衣ちゃん先生も、そう思いませんか?」


 そう言いながら、奏士くんが、ちょっと小首を傾げた瞬間、ふわりとミルクティーベージュに染めた髪が柔らかそうに揺れてキュルンって、効果音がウルウルの瞳の奥から確かに聞こえて思わず二度見したから効果音つきとかマジかよなんなの、この新種の生き物。


「オイ待て、そんなこと紬衣が思うわけないから。一方的な感情は運命じゃないしソレ単なる片想いだろってなんだよ壱太くん何か言いたそうだけど、お願いだから黙ってて。つか、そもそも順番からいえば俺が最初に紬衣と出会ってるんだから、ソコは俺だろうってしかし全く聞いてないよな奏士くん?!」


 完全無視ですよ紬衣の手にハンドクリーム乗せて、にっこり笑ってるとか。

 ヤバい。

 過去これまでになかったあざとすぎる進撃の人種が紬衣を狙ってる。

 ってか、それに何だよドサクサに紛れて「運命って順番じゃなくてオレみたいな衝撃的な出会いデショ」とかって壱太くんも冷静なツッコミと見せかけて全部攫っていこうとするのヤメて。

 しかし、各々自らの子孫を残す為の生殖本能ヤリたいたるや恐るべし。

 だが……!


「……壱太くん、分かるよな?」

「悠サン……」

「そうだ。敵の敵は……」

「え? オレ、悠サンと組む方ですか?」

「……ぅえっ?!」

「冗談ですよ」


 な、なんだよ。

 ドキドキしちゃった。


 悪戯っぽくしかも爽やかに笑うとか思わず俺まで見惚れるからヤメロ。

 とはいえ昨日の敵は今日の友だよね、壱太くん。

 

「そうだ紬衣チャン、一緒に校舎回って案内してくれる?」


 って、壱太くん? 言った傍から、なんで紬衣の手を取ってんのソレしかもさりげなく指絡めてナイですかね? 


「待って紬衣、イクときは俺も一緒だから」


 慌てて背後から紬衣の腰を拐うように伸ばした俺の片腕が引き寄せ、胸にスッポリ収まったのは突然割り込んで来た奏士くんとかナニそれ冗談にもならない。


「あわわわッ、悠ちゃんが犯罪に手を染める瞬間を見てしまいました。って悠ちゃんは、やっぱり青いパパイヤの香り漂う固くてピチピチのキュッと締まったお尻が……」

「ご、誤解だから」

「……悠サン、残念です」

「い、壱太くん?!」

「あの……良い加減、離してください」


 怯えた仔犬みたいな顔を紬衣に見せていた奏士くんが、パッと手を離した途端に下を向いて、唇の端で小さくにやッと不敵に笑ったのを見たのが俺だけだったのは、ソレこそ偶然なんかじゃナイよな。

 ははん。

 子供DTの癖に俺を本気で怒らせたらどうなるか分からせて……え? コソコソ耳元でくすぐったいからって奏士くん子供DTじゃないんだ……そんな何も知りませんって可愛い顔して、ますます油断ならないってヤツだよねって、気付けば壱太くんと紬衣は居ないしここまで一緒に来ておいてソコ抜け駆けは禁止じゃないのかよ壱太くん?!


 急いで二人を追おうとした俺に、どうしたワケか奏士くんが「ねえ、ところで……」なんて馴れ馴れしく声を掛けて来たので、そっちに顔を向けた途端。


「悠センパイ、僕と組みますか?」


 って腕を組み、可愛らしさを脱ぎ捨てたどう見てもソッチが本性だろうな奏士くんナニなら僕が組んでヤッても良いくらいの上から目線の姿に思わずムッとした俺を、ふっと笑うとか、ふざけんなよ?

 

 コレもう駆逐する一択だろ。


 ま、そうは言っても俺も大人なんでソコは余裕を見せて、にっこり笑って答える。


「……奏士くんさ、随分と俺のこと見縊ってくれてんね?」


 言い捨てて、振り返りもせずに生物室を後にした。思うことは多々あれど、まぁナニはともあれ、まずは壱太くんと紬衣を確保だな。


 しかし、三つ巴の戦いになるとかは勘弁してくれませんかね?



つづく、、、



*ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

途中ではありますが、しばらく『マスターマイスター』お休みにさせて頂きたく!

もう一つの連載である『箱庭』を、本腰入れてやらにゃいかん、とようやく重い腰をあげましてござりまする。

ヨムヨムも少し、お休み致します。

再開しましたら、紬衣たちをよろしくお願いします!!




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マスターマイスター 石濱ウミ @ashika21

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