エピローグ 事件簿の一ページ
あの丘で見つけた骨と甲羅から動物密輸事件が発覚して、ドローンで犯人のアジトを見つけて逮捕にまでつながった大騒動から一週間がたった。
いろいろとあったんだけど、今はようやく落ち着きを取りもどしたところ。
ふつうに授業も終えた金曜日の放課後、私たち四人はドリトル動物病院にむかっていた。受付をすませたあと、私たちは診察室で真田先生に会っている。
「なるほど。放火さわぎとネコの保護に始まって、とんでもないことになっていたんだね」
「はい……」
親にも警察にも、こってりしぼられた私たちはまだしょんぼりしていた。
そんなところを見て真田先生はひかえながらも笑っている。
終わりよければすべてよし。
そんな言葉も聞いたことはあるけど、どうしても複雑な気分になっちゃうよね。
「しかしおどろいたよ。みんなはたくさんの事件と謎に出会ったようで、結局は一つの問題を見つけただけだったんだね」
「そうなんです。幼稚園のころにやったサツマイモの収穫を思い出しました」
根っこを追いかけてみましょう。するとその先におイモがありますよなんて言われていたけど、まさにそれだった。
私たちは全部が終わったあとにどういう流れだったのかも警察から聞かされていた。
ユートはため息をはくと、それを口にする。
「そもそも密輸は一か月半くらい前に始まったらしいんですよね。でも、飼育が下手で死体がでた。それをペットシーツとかで包んだ上に黒いごみ袋にいれて丘まで持っていっていたらしいです。そのときにタバコ休憩しながらごみ袋とかを燃やしていたのが一部では人魂さわぎになっていたとか聞きました」
うん、それは私のお母さんが言っていた。
いくら夜だから煙が目立たなくても、光はかくしきれなかったんだね。
そのできごとも別の事件につながっていたんだっけ。私はその流れを思い返す。
「森でそんなことをするから、あそこに巣を作っていたカラスが逃げだして街に住みついちゃったんだよね。そこであたらしくご飯を探したものだから、お墓のロウソクや線香を持ち出して天井連続放火事件になったみたいです」
「そういえばカラスが増えていた気がする。あんなところにもつながっていたのか」
動物について物知りな真田先生でもなるほどってうなる理屈だったみたい。
ここまで来ると、あとは私たちが体験した通りの流れだった。
「そこで僕たちがネコを見つけて、ここにつれてきてからダニを追って、あの丘にたどり着いたんだよね」
「チート ネバー プラスパー。悪は栄えないってやつだったねー」
タクの言葉にリンちゃんは英語のことわざで乗っかった。
私たちはいいことをしたはずなんだけど、ぜんぶを丸く解決させたわけでもなかった。そのあたりをうまくやるのは本当に大変そう。
結局のところ、最後の最後に犯人をつかまえたことはやりすぎってことで、天井連続放火事件の表彰も含めてなかったことになっちゃった。
少しテンションが下がった様子でいたところ、看護師さんが病院の奥から動物のケージを持って近づいてくる。
真田先生はそれを受け取り、診察台に置いた。
ケージのなかにいるのはツヤツヤしたヒョウがらの毛皮を持つネコだった。
「じゃあ、まわりの大人にたくさんしかられちゃったみんなに僕は表彰状を送ろう。薬師寺優斗くん」
「……はいっ」
ネコをケージから出した真田先生はそれをユートに手わたす。
「君たちの努力のおかげで、この母ネコと子どもたちは快適な家と素敵な飼い主を見つけることができました。それをここに表彰します」
あの関口さんは私たちの表彰をなかったことにしたんだけど、母ネコたちはがんばって探してきてくれた。
物置小屋の火事について最終確認で警察署に呼ばれたときもお説教ばかりにはなっていたんだけど、今日みたいにネコが表彰状代わりになったんだと思う。
結局、この母ネコと子ネコ一匹はユートの家で飼われて、ほかの子どもは私たちが見つけた飼い主候補の人たちにもらわれていった。
今日はちゃんと飼うために検査とかワクチンを終わらせて受け取りに来たというわけ。
ユートは母ネコを大事そうにかかえている。
「まあ、ドリトル先生みたいな事件にまきこまれるのはほどほどにね」
「はい。反省しています」
ユートは警察で何度も言ったのと同じ言葉を口にした。
そうしてネコを受け取ったあと、私たちは動物病院をでた。
ユートはこの前みたいにネコがはいったケージを大事にかかえながらつぶやく。
「いやぁ、本当にドリトル先生みたいな事件にまきこまれちゃったよな。いっそ二代目ドリトルなんて名乗ってもいいんじゃないか?」
今までをふり返って笑っている。
そんなのおこられる未来しか見えないよ。
「やめようよ。そもそも私たちはただの小学生。獣医の先生じゃないよ?」
「なにを言っているんだよ。そもそもドリトル先生だって動物の言葉がわかるだけで獣医じゃないぞ。あの人はお医者さんで博物学者なんだ。だから名前も『ドリトル』なんだよ。なあ、リン。意訳するとネタ晴らしになるだろ?」
「え?」
私はぜんぜん知らないことを口にされてあっけにとられる。
どういうことなのか、リンちゃんは言われてなっとくした顔だった。
「ドリトルは英語のなにかをするって意味のドゥーと小さいって意味のリトルの組みあわせの苗字だねー。つまり少ししかできないって意味で、お医者さん的にはヤブ医者って意味になるのかな?」
「そう。医者としてじゃなく動物との事件で活躍したり、獣医じゃなかったり。俺たちとそんなに大きく変わらないだろ? 今回だって、俺たちにしか見つけられない形でかわいそうな動物を助けられた。もしヒナがまたこまった動物を見つけたら、みんなで手をさしのべるべきだろ?」
「あはは。チームドリトルでペットのおなやみ解決なんて言ってもいいかもね」
「おお。タク、ナイスアイデア!」
ユートの言葉にはタクとリンちゃんまで乗ってもり上がっていた。
そんなことを言っていると、本当にまたなにかに会っちゃいそうだよね。
というわけで天井連続放火事件と動物密輸事件は終わり。
チームドリトルの事件簿の一ページには、そんな事件が記されたのでした。
チームドリトルの事件簿 蒼空チョコ @choco-aozora
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます