第3話

「君、どこの子?」

一瞬のことすぎて、頭が回らない。唇が思うように動かず、喉も言うことも効かずに。

「なんとなくこの辺りの子じゃないってのはわかるよ。家出?もしかして売りに来た子?そう言うのはやめときなよ〜。」

吸い込まれそうなほどの、長い白色が揺れる。彼女の口調はとてものほほんとしたものだ。漫画や小説にいるみたいな、そんなお気楽な雰囲気で。

「貴方は、何をしてるんですか。」

「ん?私?お悩み相談みたいなもの。愚痴とかを聞いてまわってた。」

なんだ、それ。まるでさっきの私と同じ事じゃないか。

ーーーー

「ねぇ、何か困ってる事とかない?」

あの時、モヤを悩みの具現化とアタリをつけて少女に話しかけた。少しでも改善できるかもしれないと、何か情報を得るためにと何度も話しかけた。だけど、

「ありがとう。」

そう言いながら、あの子は降りた遮断桿をくぐった。

ーーーー

気付けば、さっきの出来事を白い少女に洗いざらい全て吐き出していた。いつの間にか涙も流れてて、でも何故か拭う事を忘れてただただ吐き出していた。

「そっか、辛いね。」

頭に手の感触がして。撫でられているんだと思うと話していた時のこわばりが抜けて、全身の力が抜けていく感覚を覚えた。震えも息の乱れも撫でられるたびに収まっていった。

 これが、この子が手紙の白色だとは思いたくなかった。だけど、直感が告げていた。これ以上は危ない、と。そいつから離れろと。

「ごめん、もう行かないと。」

なんとか全身に力を入れて、頭を撫でる手を振り払って去ろうとする。が、手を握られ女子とは思えないような握力と腕力で引き戻される。

「行く場所なんて無いくせに、なんでそんなに強がるの?それとも、私みたいな人は嫌い?」

そんなことはない。だけど、これ以上一緒に居ると私が消えてしまいそうな感覚がしてくる。

「手を離して。」

「離さないよ。」

なんで、離してくれない。握られた手は、びくともしない。いくら手を引いたところで、踏ん張った足が次の一歩を踏むことはない。

「私は、君のような子を止めなきゃいけないから。」

私の、ような……?

「さっき話してた悩んでる学生達以外にね、私みたいによくわからないチカラを与えられる子が居たんだ。その子達は決まって絶望した子に死を与えてた。居なくなりたいと思った子を、そういう意味で背中を押す役割を持たされてた。」

そうだ、手紙に書いてた内容を端的に言ってしまえば、死にたい人の背中を行為に近い。先程の踏切のことを考えると、そういう捉え方は間違ってないとは思う。

「でも、なんで止めるの?止める義理なんて、無いじゃん。」

「自分が貰ったチカラは、多分君の逆。死にたいと思える状況でも、少しでも生きたい意思があれば話しかけることでその気持ちを増幅させられるから。」

「その救いたいって気持ちは、本当に貴方の物なの?」

「この気持ちが義務感の延長にあるとしても、私はできることをやるだけだからね。」

あぁ、この人は根っから善人か何かかもしれない。逃げようとして踏ん張った足も、掴まれてる腕も力を抜いて、もう逃げるつもりはないという意思表示をする。こうやってこの子に引き止められたのは、私にも少なくとも生きたかったと、後悔があったからだと思う。そして、なんとなく直感する。"白色"と関わってほだされた私は、もう先が長いわけではないと。


着ていた黒いパーカーの一部は白くなっていた。

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悪魔代理と天使代理 村崎 紫 @The_field

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