筒井曽野 その1
筒井曽野の自室は、およそ想像しうる同世代の女子中学生の部屋のイメージとは大きく乖離していた。日光を完全に遮断した真っ黒な遮光カーテンは夜明けを拒絶するかのように窓一面を覆っており、天井の円型の電灯だけが部屋を照らしている。本棚には胡散臭いオカルト本や、怪奇ファイルと謳ったDVDが無造作にならんでおり、巻数や大きさもまるでバラバラだった。几帳面な四分谷は直ちに棚の整理をしたくなったが、個人の部屋には個人のルールがあることは心得ている。部屋には他に、PCとそれを支えるデスク、PCは緑と青のライトが神経のように本体の周りを囲い、輝いていた。窓際のベッドは脱ぎ捨てたパジャマや部屋着で埋まっており、頭をどちらに向けて寝ているのか判別できない状態だった。
しかし、散らかった部屋の割に室内は小気味のいい、優しい匂いにに包まれていた。芳香剤だろうか、四分谷はそれが何の匂いなのかはわからなかったが、それはとても好みの匂いだった。
「溶岩石のストーンディフューザだよ、俺のお気に入りだ。見ての通り、部屋はとっ散らかっているが、フレグランスには一定のこだわりがあるんだ。璃子ちゃんはお気に召さなかったかな?」
無意識に鼻先が動いていた四分谷を筒井曽野は見逃さなかった。
「いいえ、とてもいい。あなた中々いいセンスしているわよ」
筒井曽野は得意げに笑いながら、デスク前の椅子に腰掛け、指先を踊らせながらPCの電源をいれた。
「それじゃ、動画撮影の概要を説明するぜ。動画は
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ。だけど曽野ちゃん、ソファの準備よりまずは、もう少し片付けましょうか」
散らばった衣服を端に纏め、ベッド上に座る四分谷。筒井曽野は話を続けた。
「動画では最近イチオシの都市伝説について語る。俺は『無人駅に佇む人』か『峠の公衆電話』のどちらかにしようと思っているんだが、璃子ちゃんは聞いたことある?」
「当然、初耳よ」
四分谷は腕を組んで堂々と答えた。
「じゃあ、また後で目を通して、どちらが動画で語るのに向いているか教えてくれ。それで、次は動画チャンネルの質問コーナーだ。質問はいくつか預かっているから、答えられるものを選んで後でスタッフに連絡する。この中から面白そうな質問を見つけてくれ」
「曽野ちゃん、確認したいんだけど。私は本当に必要なのかしら?」
「必要だよ。だって、寂しいじゃん」
曽野の答えは四分谷も驚くほど、シンプルで簡潔だった。
三ツ山大学オカルト研究会 黒川 月 @napolitan07
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