幻という名の元へ

「どうしたのじゃ、汗でびっしょりじゃないかい」

「はい」

「中に入りなさい」

「いえ」

「どうしてじゃ?疲れているんじゃよ。入りなさい」

「大丈夫です。それより、隣町はどちらですか」

「そうか、そうか。隣町はあっちじゃよ」

「だが、暗闇だぞ」

「見えぬ。ここに泊るのじゃ」


ふふふふ


「いえ、暗くても行きます」

「そうかい、あっちは死人の町じゃよ」

「では、あっちへ行きます」

「そうかい、ここで死ぬんじゃ」

「わあああ」


ふふふふ


「そっちかい」

「そっちはな」


わあああ


「こっちよ、あなた」

「助けてくれ」

「こっちだよ、京助」


わあああ


「こっちです」

「宮田さん、許してください」

「大丈夫です。こちらへ逃げて下さい」

「美雪さん」


はあ はあ はあ


「もう大丈夫ですよ。京介さん」

「ありがとう、美雪さん」

「そうはいかなわよ。あなた」

「助けてくれ。たすけてくれ。頼む

「本当のことを言いましょうか」

「なんだ、どうして」

「キャンプの時の出来事の事を覚えていないの?」

「どうした」

「どうして、私達があなたを追いかけるかわかる?」

「俺がお前たちを騙したからだろ」

「まあ、それもあるがな」

「哲也、どうした」

「まだ、わからないの?」

「あなた」

「そうだよ、京助」

「どうして」

「どうしてか分からないのですか?」

「京介さん」


「美雪さん。どうしましたか」


「覚えていないのですか?」

「何をですか?美雪さん」

「あなた、美雪を見て何か思い出さないの?」

「何が?」

「本当に覚えていないのですか」

「そうだよ。俺の妹を」

「本当に覚えていないのですか?京介さん」

「覚えていないんだよ、美雪さん」

「私に何をしましたか?どれだけ辛かったか」

「何を何をしましたか。私を襲ったじゃないですか。もて遊んだではないですか」

「あああ、あの時に」

「そうです」

「そうだよ、京助。俺と鈴香さんがスーパーに行っている間に何をしたか。よく思い出せ。俺の妹に」


あああ

「悪かった、悪かった、許してくれ」


「そして、私を騙して。みんなを騙して生きているのよね。あなた、死んで」

「あああ」

「もう、行き場はないぞ」

「死んで」


「やめて下さい」

「グサ」


ああ ううう


「美雪、どうしてだ。どうしてなんだ」

「お兄さん、私は京介さんを愛しています」

「どうして、美雪さんが刺されないといけない」

「だから、京介さんを愛して……」

「美雪、美雪」

「もう許してあげて下さい。お兄さん。最後のお願いです」

「お願いです」

「わかった、わかった。すぐ、救急車を呼ぶから」

「いえ、お願いですから。私のことはいいですから」

「京助さんを許してあげてください。お酒もやめました」

「許し……」

「美雪、美雪。わかった、許すよ」

「わかった、僕は死ぬよ」

「もういい、京介」

「そうね、あなた、許してあげる」

「わかりました。仕方ありませんね」

「よかったですね」


「宮田さん……」


「京助さん。」

「お酒は……」

「愛しています」

「京介さ……」


「わかった、わかった」

「美雪さん、しっかりしてくれ」


「もうよそう、救急車は呼んだ」

「京介は助けよう」


「そうね」


「そうです」


「悪かった、悪かった、本当に悪かった」



ふふふふふ



そこには、うでが咲いていた




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うでが咲く 虹のゆきに咲く @kakukamisamaniinori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ