久しぶりに作品を完結することができました。今まではどれも中途半端なのですが、これは最後まで仕上がっていますので、補正して、公開しようと思います。
あらすじの代わりに作品の一節を紹介します。なんとなく、雰囲気がわかっていただけるかと思います。
満月の夜を迎えた。その日は雲一つなく、星空も美しく広がっていた。房江は先の丑の刻に行ったのだが、先に哲夫が待っていたのだ。
房江は慌てた。約束の場所に遅れて、申し訳なく思ったからだ。すると、気づいた哲夫が房江に声をかけた。
「房江さん、待っておりました」
「遅くなって申し訳ありません」
房江は恥ずかしくも申し訳なさそうに小さな声で哲夫に伝えた。
「いえ、おかげで、房江さんを想う気持ちが私を優しくしてくれました。房江さん、どうして、あなたはそれほど、美しいのでしょうか」
「そのような恥ずかしい事をおっしゃらないでください」
「房江さんの瞳の輝きは満月のひかりより美しいのです」
「私はもうここにいることはできません。帰えらせていただきます」
「待ってください。私の事がそれほど嫌なのでしょうか」
「それは違います」
「それなら、どうして、帰ると申されるのでしょうか」
「それは、許される事ではないからではありませんか」
「それならば……」
哲男は房江に優しく、腕を回した。心はそうせざる得なかったのだ。
「駄目です。腕を回されると私はどうにかなりそうです」
「いえ、私の腕は罪な事をしております。でもこのようにしないと私の心はいてもたってもいられないのです」
「どうか、その腕を話してください。そうでないと私は壊れてしまいます」
哲夫はこれ以上にないくらい、房江の頬に自らの頬を近づけた。
「駄目でございま……」
房江は言葉にできなかった。房江の口を覆ったからだ。そして、時がとまった。
「どうして、そのように恥ずかしい事をして、私の心を乱すのでしょうか」
「それは、私のせいではございません。房江さんが私を呼んだのです」
「私は呼んではおりません」
「いえ、房江さんの美しさが私を呼んでくれたのです」
「恥ずかしいではございませんか。そのように申されますと」
「いえ、満月のひかりがきっと許してくれるでしょう」
「でも……」
「でもとはどのような意味でしょうか?」
「私と哲夫様とは身分がちがいます」
「身分の違いなど関係ないではありませんか。それは満月が許してくれるでしょう」