天秤

体が痺れる。頭にじんわりした温かさが戻るのと共に、ゆっくり目を開けた。

なかなか焦点が合わない。恐怖が体を締め付ける


…まただ。


それでもホッと息を吐いてしまうのは、ここが職場の駐車場だったから。もし、こんな状態で運転していたら大きな事故を起こしてもおかしくはない。

わざわざこの場に戻ってくるわけはないだろうと思い込むのと同時にザワつく心…。

どの位の時間こうしていたのか?

どうやってここまで来たのか?

前兆はなかったのか?

誰かに見られなかったか?


初めてではないものの、毎回鼓動が早く強くなる

処方されてる薬をペットボトルのお茶で流し込み、少しばかり目を閉じる。



だいじょうぶ


不安だらけの私の中で声が聞こえた


大丈夫、大丈夫…


目を閉じ、深呼吸をする。深くゆっくりと。

少し窓を開け、外の空気を入れると冷たい風が顔を撫でる


だいじょうぶ




コンコンッ


コンコンッ


「神尾さん?」


あの時から一年近く経つのに、まだ私の意識は半端な所にいるらしい。

声がだぶる


「神尾さん?……まいか?舞香?大丈夫?」


大丈夫

だいじょうぶ


優斗くんの声。



そう、もう前の私じゃない。場所も違う

過去じゃない今を生きてる

ゆっくり目を開けた。

過去じゃない現在を

これから生きる

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まだ名前はない。 一色 舞雪 @may-k

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