最終話 天へ、宇宙へ、異世界へ




 ティアの突然の言葉に、一瞬場が止まった。その瞬間にウィルバーンが動き、繊細な動作で俺をつまみ上げる。両の手のひらで大事に持ち上げられ、コクピットの高さで掲げあげられる。どんな演出だ。



『骨折、打撲部位を強制治療します。ちょっと痛いですよ』


「えっ? ちょっ!!」


 ビリビリとした痛みが全身を駆け抜ける。ちょっとじゃないだろ。マジで痛いんだが。


『分子レベルで修復作業を行っています。完了。どうでしょうか?』


「お、おう。もう痛くないな。うわ、動くぞ。凄いな」


 普通に身体が動くし、痛くない。むしろ絶好調だ。改造手術とかじゃないだろうな。



「それで、その者の身柄をどうする気なのだ?」


 下から親父の声が聞こえてきた。ああ、まあそうなるか。


『もちろんわたくしが保護いたします』


「それが通るとでも思うのか?」


「それはこちらとて同じことだな。トルヴァルト王国として、アルファンドの身柄を求めたい」


 こっちもか。バンドラム伯が申し出てきた。こういう時『漢通信』って便利ではあるけど、横やり入り易いな。



 気が付けば、背後の崖の向こう側には、バンドラム伯をはじめとしたトルヴァルトの騎士たちが。前の方にはこれまた、精霊機の残骸から、フィルタルトの騎士たちが這い出していた。唯一、兄貴だけが立ったままの精霊騎のハッチに立っている。気まずいだろうなあ。



『では、まずは状況を確認いたしましょう』


 ティアの声が響き渡る。


『一応、フィルタルト国籍を持つアルファンドは、フィルタルト王国とトルヴァルト王国との戦域に、未登録の精霊騎でもって通告も無しに参戦。その後、トルヴァルト側精霊騎に攻撃を受けたため、反撃を行い、約2個旅団を殲滅。その後、フィルタルト側にも攻撃を加え、1個師団、2騎を残し、これも殲滅。総撃墜数347足すことの490で、837騎となります。これは、甲殻騎が精霊騎と呼ばれる時代になってからの、1騎士による最大の戦果となりますね。さらに言えば、一度の会戦での最大損耗でもあります。歴史の資料に残ってしかるべき数字です』


 一拍置いて。


『さて、彼の罪とは?』



 ◇◇◇



「国家反逆どころか、国家転覆だぞ!! どう見ても最大級の罪人ではないかああ!!」


 まずは、親父が叫ぶ。


「こちらとしても似たようなものだ。戦犯として扱う他はない!!」


 そして、バンドラム伯も似たようなことを言う。そりゃそうか、まいったな。前世でも今世でも、初めて罪人扱いだ。



『では、身柄を引き渡せと?』


「当たり前だ!」


『そうですか。では、回答を申し述べます』


 またまた、ティアが溜める。ああ、どういう回答するかもう分ってしまった。


『お断りいたします』


 そうだよな。そうくるよな。


『アルファンドはわたくしの相棒です。万年の刻を越えて、初めて得たパートナーです。わたくしには、彼を守る確固たる意志が存在しています。引き渡す? あり得ません』



 ティアは言い切った。俺は、ぶるりと震えてしまう。嬉しいなあ。ここまではっきりと必要だって言ってもらったのって、初めてじゃないだろうか。



『さらに言えば、アルファンドはフィルタルトの民ではありません。彼は「ウィルバーン」の臣民です。二人の合議によって政策を決定する、とても民主的な国家です』


 ティアが、どこぞの潜水艦みたいなことを言い出した。屁理屈もいいとこだ。


「国だとお!?」


 そりゃ、親父も目をむくよな。


『国家に必要な最も重要な事項の一つ、安全保障をウィルバーンは保有しています。それこそ、この惑星の全ての国家を敵にしても、臣民の安全を守るだけの戦力を所持しています。分かりますか?』


「あのさ、ティア。まさか世界に宣戦布告とかしないよな?」


『しませんよ』


 ちょっと安心した。本当に出来てしまうところが恐ろしいんだ。


『どうしますか? 残った2騎と、徒歩の騎士たちで攻撃を仕掛けますか? 宣戦布告いたしますか?』



 ◇◇◇



「まいった。負けだ」


 そう言ったのはバンドラム伯だった。


「こちらには、ウィルバーンをどうにか出来る戦力が存在しない。国としては遺憾ながら、本日は撤退させていただこう。追撃はあるまいな」


『お約束いたしましょう』


「では、我々は去らせてもらう。アルファンド、例の約束。いつか果たす時がくることを祈っている」


「ええ、こちらこそ。しばらくは先になるでしょうが」


「その時に、君の大冒険の話を聞かせて貰えることを、楽しみにしておこう。では、全軍、撤退だ!!」



 そうしてトルヴァルトの騎士たちは去っていった。



 ◇◇◇



 次は、フィルタルトだ。親父はどう出る?


「……撤退だ」


 親父はこちらに背を向け、ぼつりと撤退を指示した。そして、ハイバーンの元へ歩き出す。


「アルファンド」


「なんだい? 親父」


「おまえはもう、ハイバーンの人間ではない」


「そんなの今更だろ」


「そうだな。おまえは、アルファンド・ディア・ウィルバーンだ。今後はそう名乗れ。当家とはなんの関係も無い」



 『ディア』。侯爵家以上、もしくは王家の当主が名乗るものだ。そういうことだ。


「努力したな。だが私にはまだ届かん。これからも努力を続けるがいい。親子喧嘩を初めてやったが、存外悪くなかったぞ」


 そう言って、親父はハイバーンに飛び乗り、騎士たちと去っていった。


「……たまには顔を見せろ。アル」


 遠くから、そんな声が聞こえた。あれ? そういえば兄貴はどうなった? 何しに来たんだあの人。



 ◇◇◇



「できる? ティア」


『できますよ』


 それだけで通じてしまうから相棒のかな。


「言い忘れていましたけど、両軍の皆さん! 今回の戦闘は全て記録を残してあります。明日にでも、全世界、全国家の首都で公表しますので、よろしくお願いいたします」



「なにいいぃぃ!?」


「なんだとぉぉぉ!!」



「さあ行こうか、ティア」


『了解。ラウンチャード!』


 ウィルバーンが飛び上がる。高く高く、天よりも高く、この惑星が見渡せるくらいに高く。



「で、どうする? 間引くのか?」


『……そうですね。戦力バランスを考えても、そうするのが妥当かと思います』


「悲しい?」


『いえ、時代は流れます。滅びない物はありません。それが思い入れがあるものであってもです。ですが……』


「ああ、間引く内容は任せるよ」


『ありがとうございます。では、スタンバイ。重粒子弾形成、弾数、145241』


「トリガーをこっちに。俺が打つ」


『ハンドオーバー。どうぞ』



 俺は引き金を引いた。そしてその日、地上で稼働する8割の精霊騎が、その動きを永遠に停止した。



「でもさ、どうせ戦争は起こるよ。精霊騎がなければ、どうせ超人集団だ。槍でも、剣でも、素手でも戦争するに決まってる」


『そうですね。さらに発掘を行って、新たな精霊騎を蘇えさせるかもしれません。もしくは技術を発展させて、精霊騎の代わりを造るかも』


「そういうことだね。ここからは見守ろう」


『ええ、マーキングと監視体制は確立しています。他世界からでも観測可能です』


「凄いな、流石はティアとウィルバーン」


『ええ、わたくしとウィルバーンは凄いのですよ』



 ◇◇◇



『見えてきましたよ』


「なんだあれ、でっかいな」


『全長265.8メートル、全幅34.6メートル、全高77.0メートル。質量不確定。あれもウィルバーンです』


「完全に宇宙戦艦だな」


 そう、どう見ても宇宙戦艦としか呼びようのない物体が浮かんでいた。あれもウィルバーンか。ご丁寧にカラーリングまで一緒だ。


『もちろん、人型に変形することも可能です』


「わかってるー!!」



『最初の目的地はどうしますか? やはり地球でしょうか』


「そうだけど、出来るのか?」


『確率的には可能ですが、マーキングされていませんので、極小ですね』


「まあ、手あたり次第でもいいさ。いい旅をしよう」




『了解。では行きますよ。コール!!』



「エンゲージ!! ウィルバーン!!」



************************************************


 これにて完結です。


 私にリスペクトを与えてくれた、全てのロボット達に感謝を。


 そして、これからも。


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その名はウィルバーン ー不適格な精霊騎士の超反撃ー  えがおをみせて @egaowomisete777

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