過去編 第6話 転移から2年後

 それ以来、アベルからちょっかいを出されることは無かった。


 アベルは、マッチョになる自信が無かったのかな? それとも俺様で白馬の王子様になるのが無理なことだとさとったのかな?

 と、少しだけ気になったけど、まぁ面倒くさい事にならなくてよかった。


 そして1年後、アベルは可愛らしい女性と結婚し、その翌年には王子が産まれた。


 展開が早いなーと思いつつ、その2年の間に夢見で見たのは、初めの戦争ほど大変な出来事はなく、盛大な宴中うたげちゅうに来賓のヅラがとれて、ある意味大変な事になるだとか、どこぞの貴族が浮気してパーティー中に大喧嘩が勃発し、周りが巻き込まれて怪我人が出るだとか、ハッキリ言ってしょうもない……くだらない夢が多かった。


 アベルの結婚と、王子が産まれる夢も見たけど、それは良い夢だったので普通にエイダンに話して終わり。

 それ以外のくだらない夢は、エイダンの独断と偏見で、新しい魔道具を開発して回避したり、そのままにしたりしていた。


 そんな感じで、夢見の話の詳細は省くとして、この2年でマッチョな彼氏が出来たかというと……。


 勿論できなかった。

 なぜなら、私の身分が高すぎたからっ!!


 王様と同等とか、恐れ多くて誰も相手にしてくれないうえに、この城の騎士達はどちらかというと、ちっちゃくて可愛らしい女性はそこまで好みではないみたいだ。出る所が出ていて魅惑的な女性の方が受けが良い。


 しかーしっ、お隣のマルティネス王国は、私みたいなのがモテてるらしいという話を聞いた! 女神アルティアよ、私を転移させる国を間違えたんじゃないっ?!


 いや、でもマルティネス王国はマッチョが少ないらしいから、それはそれで困る……。

 でもさぁ、マッチョが居ても相手にされなかったら意味ないじゃんねっ!!


 なんなん?! ほんま、なんの嫌がらせなんっ?!(母の影響で興奮すると脳内で関西弁が出てくる)

 うがーっ!! と私室で暴れていたらノックの音が。


「ソラ様、開けてもよろしいですか?」


 ノックしたのはダニエルだった。


「どうぞ……」


 そしてダニエルとは、あの初対面の時からずっと仲良しだ。

 なぜなら、ほぼ毎日筋肉を触らせてもらっていて、コチラの世界でのお兄ちゃん的ポジになっているからだ! 程良い筋肉マッチョ最高!


「暴れていたようですが、どうしたのですか?」


 おっと、暴れてたのバレてーら。

 ダニエルはとっても耳が良いから、毎回色々バレバレなんだよね。呟きも全部聞こえちゃうし。


「いや、ちょっと悲しい現実に対して、いきどおってただけだよ」


「悲しい現実?」


 不思議そうに、コテンと首を傾げるダニエル。


 なんやねんこの神様、マッチョでイケメンで可愛い仕草とかズルいやろ!(母の影響で、以下略)


 でも彼氏になって欲しいとかそういう気持ちは全くない。あくまでお兄ちゃんなのだ……本当の家族ではないけど、なんかそんな感じ。


 因みに、私が筋肉を触ってる時に、ダニエルが色々話をしてるんだけど、その内容が『筋肉の育み方』とか、『強くなる心構え』とか、『綺麗な肌作り』とか、『美しく見える姿勢』とか、『健康の為にやる体操』とかで、勇者の時に色々実践していたらしく、その話を聞くのが結構面白い。


 神の力で身体を維持してる今の私達には、あまり関係なさそうだけど、普通に面白いので飽きる事なく(筋肉を触りながら)聞いている。


 そして、女神がダニエルを面倒くさがっていたのは、多分、女神的には全然興味のない話を延々と話されるからだったのかもしれない。


 いけない、話が脱線しすぎた。今は悲しい現実に対して憤ってたんだった。


「何故2年も経ったのにマッチョな彼氏ができないのっ?! 身分が高すぎとか私のせいじゃないじゃんっ! こんなの理不尽だーっ!」


 そうなのである。こちらへ来てからしばらくして、好みの範囲内のイケメンで、いい感じのマッチョな騎士を見つけたので、仲良くしようと思ったら、身分の事を言われたのだ。


 私のようなただの騎士にはソラ様と釣り合わないだとか、ソラ様のような高貴な方と付き合うなんて恐れ多いとか。


 色々小さいから無理って言われる方が納得できるわっ! って自分で言ってて悲しくなってきた。


 因みに奥手だったのは、こちらへ転移してからマシになっていた。

 アルティアが、半分残してきた魂は活発にしてくれると言ってたけど、こっちの魂も少し活発にしてくれたのかな?


 とりあえず、駿先輩の時のように隠れなくても大丈夫になっていた……が、身分のせい(色々小さいせい?)でマッチョな騎士達に相手にされず、途方に暮れるハメに……。


 普通にさみしいなぁ……。


「まぁ、まだ先は長いので、急がなくとも大丈夫でしょう。そのうち良い人が見つかりますよ」


 ダニエルめ、簡単に言いやがる……。


「ん? 先は長い? あっ! そういえばダニエルは私が転移してきた時、女神と話してないから知らなかったっけ? 私、魂を半分にしたから、40年しかここに居られないんだよ」


「えっ? そうなのですか? うーん、まぁ、それでもまだ38年ありますし、私達は老けませんから、きっと大丈夫でしょう」


 ダニエル自身も既に20年程ここに居るらしいけど、好きな人すら見つけてないくせに、何の根拠があってそんな事を言うんだろ?


 腹が立ったので、マッチョな彼氏が出来るまで、ずっと筋肉を触らせてもらう約束を取り付けて部屋から追い出した。

 あっ、勿論追い出す前にちゃんと筋肉は堪能したよ!




――――――――――




 そしてその晩、久々に重要な夢見の夢を見た。


 ファーラル王国がマルティネス王国へ攻め込み、マルティネス王国が敗戦。そしてファーラル王国がその勢力を増やし、今度はエブラータ王国へ攻め込んで来るというものだった。


 地理的に、エブラータ王国の真北にある、高い山の向こうにはマルティネス王国があって、北西にファーラル王国がカギ括弧の形(「 ←こういう形)でマルティネス王国と隣接している。


 この山とマルティネス王国に隣接している所を攻め落とし、その土地をマルティネス王国へ渡すついでに、同盟を組めば何とかなると夢見で女神が教えてくれた。


 ていうか、夢見の夢の中で女神と話せるんかいっ! と突っ込んでしまったよ。


 かなり重要な夢見の場合、女神アルティアが伝言に来てくれるそうな。私限定らしいけど。

 今さら何なんそれ。(母の影響で、以下略)


 そして、相変わらずアルティアの姿や印象は覚えてないけど、話した内容は覚えていた。

 どうなってるんだろね、ほんと。

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*本編完結* ゴリマッチョが大好きな令嬢のお話~周りには細マッチョしか居ないので諦めていたら、王城で理想のゴリマッチョと出会いました。頑張って旦那様にしたいと思います~ 川埜榮娜 @sa-ka-na

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