過去篇 第5話 夢見と魔道具

 私がわけわかめ状態だったので、悪夢の回避についてダニエルが説明をしてくれた。


「夢見の悪夢は、魔道具で回避できるようです。回避できる条件があるみたいなのですが、エブラータ王国はアルティアではない神の管轄かんかつだったので、詳しくは分からないそうです」


 えーっ! アルティア役立たずじゃん! と言いそうになるのをこらえて、そうなんですねと答えておいた。


 ……うぅむ、それにしても何度見ても程良いマッチョだなー。


 兄や父の筋肉を定期的に触らせてもらってたせいか、目の前に素敵な身体マッチョがあると触りたくなる……。


「んっ? ソラ様、どうしました?」


 素敵な身体マッチョをガン見していたせいで、ダニエルに質問された。


「あっ、いや、筋肉が素敵……ん"ん"っ」


 ついつい欲望が口から出てきて、自分でもびっくりしたわ! 勝手に出てこないで私の欲望っ!!


「うん? 筋肉が素敵??」


 普通に聞こえてたっ!!!


「あっ、いえ、えっと、ダニエルの筋肉が程良い仕上がりなので、ついつい触りた……ごほんっ」


 なんだなんだ? さっきから口が勝手に……まっ、まさか、マッチョ欠乏症かっ?!


 毎日のように、兄と父のマッチョな筋肉を触っていたから(変態ではない、筋肉の仕上がりの確認だ)それが無くなったせいで、身体がマッチョを欲しがっているのかっ?!


 えっ? 欠乏症とは、人体に必要な物質等が不足している事を言うのであって、マッチョが不足していても欠乏症とは言わないって?!


 筋肉マッチョは私の人体には必要なんですー!! 他の人は知らんけど。


「?? 私の筋肉に触りたいんですか??」


「はぅぐっっ!」


 はいっ、触りたいでーす!! って言いそうになったっ!


「んぐぐ、べっ、別に触らなくても……」


「そうですか? 別に腕や胸筋ぐらいなら構わないのですが」


 なっ、なっ、なっ、なっななななななななんですとぉぉっ!?

 そんな事言われたら、触るに決まってるやろがボケー!

 あっ、いかんいかん、ついつい、母親が怒った時に使っていた関西弁が出てきてしまった。


「えっ?? 本当に良いの? 代わりに何かしろと言われてもしないよ?」


「筋肉を触るぐらいでそんな事は言いませんよ。上腕二頭筋なら今すぐにでもどうぞ」


 そんな事を言って、ムキッと上腕二頭筋を見せつけてくるダニエル。


 ふんぬぅ、そんな事されたら我慢できませんっ!! ササッと近寄り、ワシッと上腕二頭筋を掴む。


 うわぁ、良い弾力!!


 うぅむ、なかなか良い鍛え方をしておるなぁ。こんな筋肉を持つ、お主も悪よのぉ。


 上腕二頭筋をムニムニ触ってたら、脳内でお代官様ごっこが始まった……って私ってば何をしてるんだ。越後屋が出てくる前に我に返る。


 名残惜しいが、ダニエルとは初対面だしこれくらいでやめとかないと駄目だよね。

 意志を強く持って、上腕二頭筋から手を離すんだ!!


 ――――無理だっ! 離せないっ!!


「ソラ様、しかめっ面になってますが、大丈夫ですか?」


「えっ? あっ、『そろそろ離さないと』と思う理性と、『離したくない』感情が格闘してた」


 またもや、思ったことがそのまま口から流れ出る。


「減るものではないので、好きなだけ触ってもらって大丈夫ですよ? 鎧を着ていなければ腹筋等も触らせてあげられたんですが……」


「なっなっなっ何っ?! そんな親切にされても何も出せないよっ?!」


 優しすぎるダニエルが怪しくて、ついそんな事を言ってしまった。


「さっきも言いましたが、上腕二頭筋を触らせるぐらいで何かをしてもらおうとは思いませんよ?」


 神かっ?! ダニエルは神なのかっ?!

 って、そういえば、ほぼ神だった!!!


 よぉしっ、許可されたので思う存分触らせてもらおう!


 そして、10分ほど上腕二頭筋や、腕撓骨筋わんとうこっきん等、腕の筋肉を触らせてもらい、無言だとまた脳内にお代官様が出てきそうだったので、触っている間に今回の夢の話をした。


「今回ソラ様がみた悪夢は、新しい魔道具によって私がこちらへ戻ってきたので、回避されると思います。今後も夢見の巫女として励んで下さい」


「はーい」


 うん、何か上手くまとまった。

 ていうか、ダニエルってば凄く普通だったんだけど、アルティアとは単に気が合わなかったのかな?


 はぁぁぁ、それにしても良い筋肉でした!

 ご馳走様でしたっ!!


 さて、この事をエイダンに報告するかー。




――――――――――




 『ダニエルが戻ってきたから戦争に負けることは無さそうだよー、また夢見で何か見たら教えるね』という報告をしようと、エイダンの元へ向かっていた途中、アベルに捕まった。


「たまたま散歩をしていたんだが、ソラに会えるとは嬉しいな」


 突然背後から忍び寄り、スッと腰に手を回しながらそんな事を言われから、ビックリして反射的に手をはたいちゃったよ。


 馴れ馴れしいな。スキンシップの多い国なのか? 欧米か?


 そしてここは廊下だよ? 王様は何の変哲もない廊下を散歩するのかな? 普通は庭園とかではないのか?

 てか散歩へ行く途中だったの? なら、散歩へ行く途中とか言うよね?


 そんな疑問をよそに、何故か一緒にお茶を飲む流れになってしまった。


 ていうか、こんな事をしている場合ではないのだ! 細マッチョ以下の王様と、茶をしばいている場合ではないのだ!(茶をしばく→お茶をする)


 ……いや、ほんとに、エイダンへ報告をしに行きたいんだけど……。


「ソラの好きな物はなんだい?」


「筋肉です」


 おっと脊髄反射で答えてしまった。もしかして食べ物とかだったかな?


「筋肉……? えっと、では、好きなタイプはどんな人なのかな?」


 何故か横並びでソファーに座っているので、やたら近い距離で、やたら美しい顔と美しい声で聞いてくる。


 ていうか普通こんなんじゃなくて、テーブルと椅子で向かい合ってお茶するんじゃないの?

 そして、マッチョじゃなくても、美しいお顔がこれだけ近いとソワソワするから離れて欲しい……。


「イケメンマッチョです」


「……イケメンマッチョ?」


 さっさと席を立ちたい私は、アベルの質問に対して手短に答える。本当のことだしね!


「ええと……ソラは逞しい人が好きってことなのかな?」


「そうですね。アベルの後ろに居る、騎士さんぐらいの体格がベストですね」


 アベルの後ろに控えている、見るからにマッチョな護衛騎士さんの方を見て答える。


「んー……えーと、では顔は? イケメンが良いと言っていたが、顔はどんな感じが好みなのかな?」


「俺様感があって、絵本に出てくる白馬の王子様のような顔が好きです」


「……俺様で、白馬の王子様…………」


 私の答えにガックリと肩を落とすアベル。


 アベルは俺様とは程遠く、白馬の王子様って感じでもない、美しくて美女でも通りそうな感じのご尊顔だもんね。


 えっ? 駿先輩は強面で、全然白馬の王子様って感じではなかったのではって?

 いやいや、マッチョで俺様感があったし、白馬の王子様ではなくても、好みの部類のお顔だったの!


 ……おっと、話がそれちゃった。


 ていうかアベル、そんなに凹むほど私の事を気に入ってくれてたのかな? ちょっと申し訳ない事をしてしまったかな?


 でも、探せば理想的な人物マッチョが居そうなこの世界、俺様でもなくマッチョでもない人と恋愛する時間が勿体ないのですっ!


 ……そして相手が王様とか、面倒……げふんげふん。


 凹んでいるアベルには申し訳ないけど、お茶も飲み終わったので、退室の了承をとって颯爽さっそうと立ち去り、無事エイダンへ報告をしに行く事ができた。


 夢見の話だから、王様であるアベルに直接報告しても良かったんだけど、一応ダニエルの事はエイダンに聞いたし、その他諸々を考えると、エイダンに報告したほうが無難だからね。

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