愛する作品への真摯な想いを胸に、一生懸命今を生きる主人公の姿

 本作の大きな魅力は、アニメを介したオタク文化の生き生きとした描写にあると言えるでしょう。登場人物であるカナと親友のナギ、そして松谷先輩との会話を通して、アニメを愛好する者同士の交流が印象的に描かれています。

 カナが『ギルボア』を初めて観るくだりは、戸惑いつつも、その独特の魅力に次第に引き込まれていく様子が丁寧に描写されており、読者も共に作品世界に引き込まれていきます。さらに、以前から耳にしていたアニメネタの元ネタが分かる喜びや、先輩との共通の話題が増えることへの期待など、アニメを通じて他者と繋がる楽しさが巧みに表現されていました。

 また、『完全版〈宇宙艦隊ギルボア〉詳細設定集』の存在も、物語に深みを与えています。登場メカや用語の詳細な設定、名場面のセリフの数々が紹介されることで、『ギルボア』という作中作品の存在感が際立っています。そして、松谷先輩から借りた設定資料集のあちこちに付箋やメモが付けられていたというディテールからは、作品への並々ならぬ情熱が感じられます。自身を「ギルボア・ファースト原理主義者」と称し、アニメを観ただけの者とは一線を画す先輩像からは、ややマニアックなオタク像が彷彿とされつつも、どこか憎めない人間味が感じられるのです。

 こうしたアニメ作品を軸に描かれるキャラクター同士の機微に富んだ関わり合いは、オタク文化の持つ独自のコミュニケーションを見事に浮き彫りにしていると言えます。作中で表現されるアニメへの熱意と仲間内での交流は、オタク文化の内側に入り込んだような感覚を抱かせ、大きな共感を呼ぶものです。

 カナの『チェリゴの占星医術師』への並々ならぬ愛情は、作中随所から伝わってきます。

 ペト様のセリフを引用しながら「大好きな場面の一つだ(全部好きだけど)」と語り、「早く帰ってペト様を描きたい!!」と熱望する様子からは、『チェリ占』を心の拠り所とし、それに没頭する夢見がちな少女の姿が浮かび上がります。

 その一方で、同人誌制作に意欲的に取り組む姿や、見知らぬ土地で『チェリ占』の知識を状況判断に活かし冷静に行動する場面からは、内なる情熱を原動力に前へ進もうとする彼女の行動力の高さも窺えます。

 「異世界へようこそ!」の看板を見た時の「誰だ、こんなふざけたモノ置いたのは?」という率直な感想には、現実を直視する彼女らしい一面も表れています。

 夢想と現実、二つの世界の狭間で揺れ動きながらも、愛する作品への真摯な想いを胸に、今を一生懸命生きるカナの姿には、大いに共感し応援したくなります。

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