オンディーヌ

夏の光が街を貫くなか、冷涼に保たれた自分の部屋で、咲羅は祖父から送られて来たラベンダーを袋に詰め替える。椅子や床に座り、その匂いに包まれながら、咲羅は人魚や妖精や花々に出逢う。よろしければ「オルフェウス」と併せてお読みください。


――以下は同人誌初掲載時のあとがきです――

　眠りや手のひらの感触やガラス窓、そして遠くの人、近くの人、紛れもない自分の領域とそうでないけれど自分を感じられるようなどこか。誰にとっても、半ば個人的で、半ば共有された暮らしの場であるような世界、会話や視線の世界がすぐ近くにある一方で、同じ命を、旅人が持ち、花々が持ち、見えない世界があり、その上空に漂っていく匂いがあったりする。オンディーヌは波の娘や水の精というような存在だが、文学の領域では生まれて初めての恋を自分…続きを読む