約束

「お義姉さん、本当にいいんですか?」

「ええ。ありがとう。でも、本当に大丈夫よ。」

毎年のように誘ってくれる義妹をありがたく思いつつも、私は今年も1人で花火を見に来た。

『可愛い』ものはさすがに無理ではあるけれども、今年も浴衣を身に着けて。

数年前、旦那さんとなった彼が他界してから、毎年の恒例行事になっている。

2人分のおつまみと、2人分のビールを持って、いつもの場所にレジャーシートを広げて座る。

ほどなくして、ふわりと、空気が動いた気がした。

「今年も、来てくれたのね。」

まだ熱の残る夏の空気が、私の頬を優しくなでる。

「じゃ、始まる前に、飲んじゃおっか。」

缶ビールを2本開け、軽く、乾杯。

「残ったら、私が飲むから。」

クスクスと笑う、彼の声が聞こえるような気がする。

命日にもお盆にもお彼岸にも、正直いって彼の存在を感じる事はできないけれど、毎年必ず、この花火の日だけは彼の存在を感じる。

きっと、他界した人がこちらに戻れる日は1年に1日しかなくて、彼はそれを花火の日にしているんだと思う。

だって、彼は誠実な人だもの。

ちゃんと、約束を守ってくれているんだと思う。

『ずっと毎年、一緒に見に来ような。』


【終】

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花火 平 遊 @taira_yuu

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