仲直り

「隣、座ってもいい?」

黙ったままうなずく私の隣に腰をおろしながら、彼は私の手に缶ビールひと缶を押し付ける。

「冷たいうちに飲みなよ。」

言いながら、彼はもうひと缶のビールをあけ、私を見る。

「乾杯、しない?」

突然すぎて、頭がついていけない。

慌てて手にした缶ビールをあけ、彼の缶と軽く合わせた。

「乾杯。」

同時に、ひときわ大きな花火が開き、一瞬、あたりが昼間のように明るく照らし出される。

と。

私の頬に何かが押し当てられた。

「えっ。」

「泣かせて、ごめん。」

手にしたハンカチで、彼がそっと私の涙を拭う。

瞬間的に、先ほど見た彼の隣を歩く浴衣姿の女の子の姿が頭をよぎり、私は思わず彼の手を払いのけていた。

「なんで来たのよ。」

自分でもイヤになるほど、声がトゲトゲしているのが分かる。

「何でって・・・・」

彼は驚いたように、私を見ている。

私が、彼女の姿を見たことに、気付いていないのだろうか。

「早く、彼女のとこに戻りなさいよ。」

彼は、優しい。

時々、びっくりしてしまうほどに、優しい。

だから、1人きりの私を見かけて、来てくれただけだ。

そう、思っていた。

ところが。

「うん。戻ったよ。」

不思議そうに、彼は言う。

「・・・・は?」

「だから、彼女の所に、戻ったんだけど・・・・あれ?」

彼の顔が悲しそうに歪む。


「俺たちもう、別れちゃってるの?」


頭が混乱していた。

彼は決して、二股をかけるような不誠実な男ではない。

というか、そんな器用な人ではない。

そんな所も、好きな所の1つではあるのだけれども。


でもじゃあ、さっきの女の子は・・・・?

あの、浴衣で一緒に歩いていた子は、一体誰なの?


怖くて口に出せずにいる私をじっと見ていた彼が、突然声をあげた。

「あっ!もしかして、妹と一緒のところ、見られた?!」

同時くらいに、周囲のざわめきが大きくなり、見れば恒例の仕掛け花火が始まるところだった。

しばらく、2人で仕掛け花火に見入る沈黙の時間が流れたのち、彼がポツリポツリと話し始めた。


「俺、もしキミが来てなかったらと思うと怖くて、正直なところ、今日来ようかどうしようか迷ってたんだ。そうしたら、妹がさ。約束したなら絶対に行けって。もし彼女が来てなかったら、自分達の仲間と一緒に見ればいいから、絶対に行って彼女を探せって。せっかくだから、少しでもマシに見えるように、ちゃんと浴衣も着て行けって。俺、妹と一緒なんて恥ずかしいから、1人で行くって言ったんだけど・・・・どうせ目的地が一緒なんだから一緒に来いって聞かなくて、あいつ。」

照れくさそうに、彼は少し笑って、でもすぐに笑いを消した。

「なんかもう、なんて言っていいかわかんなくて。でも、別れたくはなかったから、返信もできなくて。今日ちゃんと話そうって思ってたんだ。でも・・・・もし、キミがいなかったら、って思ったら・・・・」

「約束、したじゃん。」

「うん、そうだよな。」

再び、大きな音と共に、打ち上げ花火が始まった。

「ごめんな。」

「うん。私も。」

お互いに、花火を見上げながら、口にする。

「でも、なんだったっけ、最初に怒られたの?」

「・・・・忘れた。」

思わず顔を見合わせて、同時に吹き出す。

「来年も、一緒に見に来ような。」

「うん。」

「その次の年も、ずっと毎年、一緒に見に来ような。」

言いながら、彼の手が私の手を捕らえた。

「うん。」

答えながら、私も彼の手を握り返す。

「できれば、毎年浴衣姿が見たいな。・・・・似合ってるし。」

ちょっと恥ずかしそうに、横を向いて彼が言う。

「じゃ、毎年2人とも浴衣で来ようね。・・・・あなたも似合ってるよ。」

私も反対側を向いて、そう答えた。

頬が熱を持っているのは、きっと缶ビール2本のせいだと思った。

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