後悔

花火の時間がだいぶ迫ってきたのか、穴場のはずのこの場所にも人が増えてきていた。

缶ビールを3/4ほど飲み終え、あぁやっぱりもう1本持ってくれば良かったなと思った時だった。

私が座るすぐ隣を、2人連れが通り過ぎた。

何とはなしに見上げた先にあったのは。

初めて見る浴衣姿の彼と、同じく浴衣姿の可愛い女の子の姿だった。


来たのは、間違いだったのかもしれない。

もうすっかりぬるくなった残りのビールを、一気に胃に押し流す。

とたん。

ドンッ。と。

お腹に響く音と共に、一発目の花火が打ち上がり、いつの間にかすっかり暗くなっていた夜空を彩る。

暗闇に広がる大輪の花火が、ぼやけて見えた。

あとからあとから涙が溢れて、止まらない。

周りが暗くて本当に良かったと、心の底から思った。

どうしてあの時、あんなにキツいことを言ってしまったのだろう。

どうしてすぐ、謝れなかったのだろう。

そうしていたら。

もしそうしていたら。

今頃、彼の隣にいたのは、あの子ではなくて、私だったはずなのに。

私の隣には、いつものように彼がいたはずなのに。

ビールを飲もうと缶を持ち上げて、もう中身が無いことに気付く。

そうだ、さっき一気に飲んでしまったのだった。

飲み足りない気持ちを抑えて、仕方なく保冷バッグの中からペットボトルのお茶を取り出した時だった。


「ひと缶じゃ、足りないんじゃない?」


上から降ってくる、聞きなれた声。

見上げると。

花火の明かりの逆光の中、両手に缶ビールを持った彼が、緊張しているような困ったような笑みを浮かべてそこに立っていた。

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