第4話 王の密かな告白

 毎朝、目覚めると必ず新鮮な水と餌が用意されている。爪とぎも、適度な硬さのものを常に取り替えてくれる。窓辺の日向ぼっこの場所には、いつの間にか柔らかいクッションが置かれていた。

 そういえば、下僕が出かける時は必ず「行ってきます」と声をかけてくる。吾輩は決して寂しくはないのだが、なぜか足音を聞きつけると扉の前で待っている。王としての儀式、そう、これは紛れもなく儀式なのだ。


「おやすみ、ミケちゃん」


 下僕の声が段々小さくなっていく。

 吾輩は静かにキャットタワーから降り、そっとベッドに近づく。下僕の寝息が規則正しく聞こえ始めた。


「まったく、困ったやつだ」


 誰にも聞こえない声でつぶやき、吾輩は下僕の胸元に収まるように丸くなる。爪はしまったまま、下僕の指先に添えるように我のつま先を添えてみる。吾輩よりも大きく、器用な手があればこそお前は下僕なのだ。

 下僕の手の温もりを感じながら、吾輩は柔らかな毛並みが触れるように下僕に寄り添う。

 何だかんだ言って、このしつこくて、理解不能で、どこか憎めない下僕のことが……好きなのかもしれない。

 もちろん、これは誰にも言わない秘密である。王たる者の沽券に関わる。


「にゃ……」


 小さな寝息と共に、吾輩は下僕の体温を感じながら眠りに落ちていった。窓の外では、満月が静かに二人を見守っている。

 満月が夜空に漂う静かな時間、その柔らかな光に包まれて、吾輩と下僕の影は一つに溶けていく。それはまるで、運命が織り成す美しい調べのようだった。




*⑅୨୧┈┈┈┈┈ あとがき ┈┈┈┈┈୨୧⑅*


つま先から爪先を想起し、そこから猫へ。

猫といえば「吾輩は猫である」だなあと思って、現代風にアレンジすることにしました。

Curiosity killed the cat.――英語のことわざで「好奇心は猫を殺した」というものがあります。英語教師だった夏目漱石らしく、原作はそのとおりの終わり方をしているのですが、こちらではハッピーエンドにしています。

猫はノルウェージャンフォレストキャットをイメージしながら書いたので「森の王」→「王」という形に繋がっています。


猫好きな方には思い当たる節がたくさんあると思いますが、特定の誰かをイメージして書いたわけじゃありませんので、気になさらないでください。


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王様の肉球日記 FUKUSUKE @Kazuna_Novelist

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