こんな物語を求めていたかもしれない

人間は必要な栄養素さえ、自分ではいちいちわからない、どんくさい物だ。

私は〝父と子〟というテーマが好きである。読むよりは書く方が好きだし、とりわけ●●父子(※本編ネタバレ回避)はたまらない。
そこへいくと本作は、背後から急に心臓をぶち抜かれたような手際だった。

短く、語られぬことも多い本編。黒の魔法使いがなした悪事についてはあまり語られず、それはズルいほどヘイトコントロールがきいている。しかし、そこにいくら思いをはせても、父子のまばゆい真実に私は灼(や)き尽くされるしかない。

私は、私が自分で書きたいと求めていたテーマの、ひとつの極致を本作に見た。黎明が誰にも顧みられず、自らを毒虫の餌にしてまで呪おうとした世界で、それでもたった一人だけ寄り添ってくれる魂がいる。それだけで、それだけでもう。

それは奈落の旅路であっても、きっと涅槃の心地だろう、と思うのだ。

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