誰も知らない「黒い魔法使い」の人生のお話
- ★★★ Excellent!!!
正義の「白い魔法使い」が、悪の「黒い魔法使い」を打ち倒し、世界に平和をもたらすおとぎ話。
あるいは、そのうちの「黒い魔法使い」の生涯を描いた現代ファンタジー。
タグに「疑似親子」とある通り、父と子の物語です。おとぎ話調の序章から始まり、魔法使いという存在が出てきますが、舞台そのものはあくまで現代です。
大変引きこまれました。気づけば一文一文をもう、じっくり舐めるように読んでいたような感覚。何が良く、どこに惹かれたのかうまく言語化できる気がせず、つまりは単純に巧みなのだと思います。物語の作り方とその語り方、加えて文章がそれぞれ好き。
いい話、感動する話、なんて言い方はあまり好きではないのですけれど、とにかく「物語から得られる何か情動のようなもの」の、その総量が凄まじいです。
展開はどこまでも素直で、搦め手や飛び道具のようなところが一切ないのが特にすごい。
淡々と真正面から訴えてくる姿勢で、そこに軽やさ安さをまるで感じさせず、こんなにも読ませるお話というのは、そうあるものではないと思いました。
面白かったです。本当にじっくりゆっくり読み込まされました。やっぱり文章が好きです。うまくて読みやすくて自然な感じ。