街を襲った大停電。獣医たちは命を救うべく奮闘する

2018年9月6日に北海道胆振地方を襲った大地震。この地震で起こった大規模な停電は記憶している人も多いだろう。その停電の影響をある意味一番大きく受けてしまったのが、ある種意外なことに酪農家たちだった。

酪農と停電は一見そこまで重要な関係ではないように思えるが、実際は牛の給餌も搾乳も電気がなければ行えない。そして搾乳ができないという状況は牛の命にも大きく関わってくる。獣医師の篠崎は一頭でも多くの牛を救うべく大パニックに陥った農家を駆け巡る。

現実に起きた出来事を元にした本作品だが、注目すべきはその臨場感だろう。電気が来なければテレビもつかなければ携帯の充電もできず、冷凍庫の中のアイスは溶けてしまう。そうやって大きな事件だけではなく、停電による小さな困難をしっかり書くことで作品にリアリティが与えられ、そのまま別海を襲った大事件の緊迫感を描くことに成功している。

そしてこの絶望的な状況下で、懸命に自分のできることを行う篠崎たちの姿がグッとくる。電気が来なければ根本的な解決は望めない。それでも自分たちにも何かできることがあるはずだと奮闘する篠崎たち。大きなトラブルの裏側では、いつだって頑張っている人たちの姿がある。そんな当たり前だけど忘れがちなことを読者に思い出させてくれる一作だ。


(「ご当地小説特集」/文=柿崎 憲)

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