第428話 ヌルヴィス対全身ローブ ④

(ここは一旦……)


「逃がさない」


距離を取ろうとした俺を逃がさんとばかりに全身タイツは向かってくる。


(まずい…)


俺は全身タイツの攻撃を回避しながら内心で焦っていた。その理由は魔力と闘力のそこが見え始めたからだ。もう体感半分を切っており、このままだとあと5分も持たない。しかも、全身タイツを仕留めるために2、3分に相当する魔力は使うだろう。

つまり、俺には2分ちょっとしか残されていないのだ。しかし、全身タイツは魔法を使い始めたこともあり、隙は一向に生まれない。こうなったらいつも通りある程度の犠牲を覚悟して突っ込むしかない。



「せあっ!」


(ここだっ!)


全身タイツが俺の腹目掛けてパンチを放ってきたが、俺はガードせずに闇身体強化をして突っ込む。俺の防御力と全身タイツの攻撃力では当然全身タイツの拳は俺の腹を貫通する。それでも俺は止まらず全身タイツに近付き、身長差を使って覆い被さるように抱き着く。


「あっ…」


全身タイツの動きが一瞬止まるが、好都合だった。俺は絞め壊すほど力を込めると同時に、魔装を大きくする。


「(そっちからは初めてで嬉しかったのに…)そういうことか!」


全身タイツは俺の目的を即座に把握し、俺を投げ飛ばす。


「凍てつけ、アイスアーマー」


俺は咄嗟に転がりながら氷魔法で自分の腹に空いた穴を閉じる。正直、これでも回復しなければそう遠くないうちに死ぬだろうが、俺にはそのあと少しの時間が必要なのだ。


「ちぇっ…」


全身が黒く燃えながら全身タイツは舌打ちをする。全身に闇付与の効果が出た以上、自切してどうにかすることはできない。

今の状態で全身タイツにできることは場外に出て結界の効果で回復することと、俺を気絶させるか負かすことで闇付与を解除させる方法だ。

そんな状況で全身タイツが選んだのは……。


「しっ…!」


「くそが…」


後者の俺を倒す方法だった。回復ポーションを取り出して飲むという隙を晒さなくてよかった。


「アロー!」


「っ!ダークウォール!」


全身タイツは余裕が無いのか、数百という火の矢を放ってくる。狙いがバラバラだったおかげで何とか俺の魔法でも防げた。


「はあっ!」


「こふっ……」


だが、全身タイツはその間に俺まで近付いていた。全身タイツの蹴りを何とか大鎌で防げたが、踏ん張ることも出来ずに無様に吹っ飛ぶ。また、その際に腹の氷にヒビが入った。これが割れたら負けるだけでなく、死ぬ可能性もある。


「ははっ…」


そんな状況だが、俺は横に倒れながら全身タイツを見て笑う。全身タイツはどんどん炎に燃やされ、小さくなっていっているのだ。



「完全に消えるまでに俺を殺れるか?」


「………」


全身タイツはさらに俺に1歩踏み出したが、方向転換して結界の外へ向かっていった。

そして、全身タイツは一瞬結界の前でスピードを弛めたが、そのまま結界の外へ出た。


「じょ…場外!し、試合終了!!」


そのアナウンスと同時に近くにいた審判らが急いで結界の中に入り、俺を外に出した。



「……死ぬかと思った」


俺は氷魔法と共に無くなった腹の穴を見てそう呟く。さっきまでの血がなくなったことによる気分の悪さもすっかり消えていた。正直、あと1回全身タイツに攻撃されたら生きてらなかったかもな。


ザッザ…


「………」


「………」


場外で座っていた俺の前に全身タイツがやってきた。もう全身タイツではなく、全身ローブにしているけど。


「次は殺す気でやる…。いや、殺してでも私のモノにする」


下から見上げることで全身ローブの顔が見えたが、ピンクの髪に、幼さを残した可愛らしい顔をしていた。

しかし、俺に宣言するその瞳は鋭く力強かった。


「逆に次は殺してやるよ。魔王軍幹部」


「……」


全身ローブは俺の言い返しに反応することなく、俺の前から去っていった。

……多少でも反応してくれないと、全身ローブが本当に魔王軍幹部だと断定できないじゃないかよ。

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世界でたった1人の鬼才の魔法剣士 〜不遇を添えて〜 2次元くん @nizigenkun

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