第24話
花火のクライマックスの連発を見届けたあと、花火大会の美しさと迫力に二人が感動に浸りながら、また人混みの中を流れに合わせて歩いてバス停に向かった。
朋美さんは、その柔らかい手を繋ぎながら言った。
「ねぇ和ちゃん、もっともっと想い出たくさん作ろ?たくさん色んな所行って色んなもの見て二人で写真とかたくさん撮って」
僕はその言葉が凄く嬉しかったが、何となく感じてる違和感がその言葉に凝縮されてるような気がして更に不安になる。
朋美さん…何か生き急いでる?まるで二人の時間には限りがあって、今想い出作らないと後悔するかのような…確かに僕よりはずっと朋美さんの方が若い時の時間は圧倒的に少ないかもしれない…それに、僕に別の若い彼女がこの先出来ないとも限らないっていう気持ちもわかる。僕だって朋美さんとたくさん楽しい想い出作りをしたい気持ちもある。でもやっぱり…いや…ただの思い過ごしなんだろうか?
そんなことを思いながら僕は笑顔でうなずいた。
そして、次の週にたまたまシフトで僕らは休みが重なったので、今度は朋美さんから海を見に行きたいと誘われた。今は夏本番の暑さで日焼けも覚悟だけど、朋美さんの大好きな海で想い出をという提案に僕は喜んで承諾した。
当日、僕らは車で一時間程の綺麗なビーチに到着し、サンダルを脱いで海に足を浸けた。
海の水はぬるく、浜辺に押し寄せる波もそれほど勢いが無いのでどんどん前へ進んで行った。朋美さんはワンピースの裾をまくし上げ、白くて細い綺麗な脚を覗かせながら嬉しそうにはしゃいでいる。僕もハーフパンツのまま膝まで浸かった。潮の香りと波の音が五感を刺激して、朋美さんと僕は手を繋ぎながらまるで子供の頃に戻ったように無邪気にはしゃいだ。
そしてここでも朋美さんはスマホを取り出し写真を撮ろうと言って海をバックにツーショット写真を撮った。
僕は今凄く幸せだ!こんなに大好きな女性とこんなに楽しい時間を共有出来て!ずっとずっとこういう生活を続けたい!この先もずっと!
僕らは幸せいっぱいな気持ちで帰宅した。
その後もほぼ毎日のようにお互い仕事が終わってからどちらかの家に行ったり、休みが合えばデートしたりと、それは本当に恋人と呼び合える関係だ。
いつしか僕らはバーチャルではなく自然に愛し合う領域に達したと言っても過言ではない。
ただ、ピュアな関係からは抜け出すことがなかった。それはつまり肉体関係に発展していないという意味だ。
そうした関係になりたく無いのではなく、逆に欲求は強く持っていたが、安易に身体を求め朋美さんに対してその惰性で安っぽく見てしまうのを恐れた。朋美さんのことを心から愛していたからこそ大切にしたいという思いがあったからだ。
が、しかし、朋美さんは度々僕と会うことを拒むかのような態度があることに不満を募らせた。
体調不良…それは仕方ないことだとはわかっている。でも、そんな時だからこそ側に居てあげたい、何かしてあげたいと思うのは当然のことだと思う。
それをかたくなに拒まれれば、どうしても疑念を抱いてしまう…
時には2~3日会えない日もあった。
朋美さんに限ってまさかとは思うが、僕の他に誰か相手がいるのでは?
そういう疑心暗鬼な日々が続きながら月日は流れクリスマスの日を迎えた。
この日はお互い出勤だったが、仕事を終えてから事前に予約していたケーキを受け取りにケーキ屋に向かった。僕は一人でケーキを買い朋美さんの家に着いた。朋美さんは簡単なオードブルを作ってくれていて、小さなテーブルには既に皿に盛り付けたオードブルが並べられていた。
さすがに料理上手な朋美さんの手料理は、どこかで買って食べるものより数段に味が上だった。
「朋美さん!やっぱり美味しいです!最高ですね!」
僕は何のお世辞もなく心から出た言葉だった。
「やだもう…そんなに褒められると逆に大げさに聞こえちゃうわ…」
朋美さんは恥ずかしそうに笑っている。
「いや!本当です。シェフの作った料理みたいですよ!」
朋美さんの可愛い笑顔、他の誰にも見せない甘えた声、透き通るような白い素肌…何もかもが僕の理想の女性…今この瞬間も僕の側に居て、心が通じ合って、本当の恋人同士のように仲が良くて…全てにおいて満たされてる…
はずなんだけど…
どう表現したらいいのかわからない漠然とした不安…
凄く幸せで、それでいて淋しいような…
それが何なのかよくわからないんだけど…
和やかな空気の中、食事を終えて少し休憩してから先ほど買ってきたケーキを出して来てさぁ食べようというとき、朋美さんのスマホに着信が鳴った。
朋美さんが着信の相手を確認するため画面に目をやったとき、一瞬朋美さんの顔がひきつったように見えた。
そして立ち上がって
「和ちゃんちょっと電話してくるわね、ごめんね…」
と言って部屋を出て廊下でコソコソ話しているような雰囲気だった。
朋美さんはすぐに戻って来たが、明らかに少し動揺しているように思えた。
僕の漠然としていた不安は、もしかして本当に当たってしまうのだろうか!
僕は恐くて朋美さんに電話の相手が誰だったのか問うことが出来ずにいた。
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