第17話
「あ…あの…それって…僕をからかってます?」
「そう思う?」
梅田さんは僕を試すようにニヤニヤと意地悪な表情で見ている。僕は純粋な心をもてあそばれたんだと思い
「い…いやだなぁ…ビックリさせないで下さいよ~…」
内心僕は人のことをバカにして!とムッとしたが、それは表情には出さずおどけて見せた。しかし、梅田さんは想像していたよりも厄介だった。
「北村君…私の彼氏になって…私…好きだよ…北村君が…」
またまたぁ…そうやってまたからかってるんでしょ?僕の反応見て楽しんでるんでしょ?もういいよぉ~。とんだ茶番劇に付き合わされたと思って僕はサラッと流すように言った。
「梅田さん、もうからかうのは止めてくださいよぉ~。そりゃ僕だって男なんだから女性は嫌いなわけじゃない。でも…そういうノリで付き合うものじゃ…」
そう言いかけたとき、梅田さんはテーブルの上の僕の手を握ってきて
「本気よ…付き合って欲しい…」
真剣な眼差しで僕を真っ直ぐ見つめている。僕は思わず手を引っ込めていた。
「あ…あの…えーと…梅田さん?」
僕は動揺してどう言ったらいいのか混乱している。僕はこんな風に女性から言い寄られた経験がない。梅田さんの目はさっきまでとは違い、表情にも笑顔は消えていた。これは流石に冗談で言ってるのではないと感じ、僕は彼女を傷付けずに切り返す方法を頭の中でグルグルと思考を巡らす。しかし梅田さんは僕にその隙を与えまいと先手を打ってきた。
「北村君、とりあえずこの店出ましょ!」
そう言って強引に僕の手を引いて立ち上がる。僕はその大胆な行動に呆気にとられてそのまま付いていく。彼女が会計を済まし流されるままに車に乗り込んだ。しかし、僕は車のエンジンをかけず黙って座り込んでいる。
「北村君?どうしたの?行こ?」
行こ?って…簡単に言うけど…これってそんな簡単なこと?そんなノリでするもの?僕は未経験だからこの先の世界はまだ知らないし、それに…僕には朋美さんが居るんだよ!その朋美さんを裏切るようなことは絶対に出来ないんだよ!僕は心の中で必死に叫んでいる。しかし、彼女には僕のこの想いはまるっきり理解出来ないようだ。いや、むしろ彼女にとっては男など女から誘えばみんな落ちるという概念しかないのかも知れない。
「北村君?どうしたの?もしかして…初めて?それなら大丈夫!お姉さんがリードしてあげるから」
そういう問題じゃないんだよ!なぜ興味がないとわかってくれない?自分から気付いて欲しいのに…なぜそっちの方向には考えられないの?僕は出来ることなら梅田さんから察して欲しかった。断って傷付けるのが嫌だったから…いや、悪者にはなりたくなかったんだろう…
「梅田さん…」
「ん?何?」
「あの…こういうのは…ノリでするものじゃ無いって言うか…まだ付き合ってもいないし…」
「じゃあ付き合お?」
じゃあって…まるで僕の気持ちは無視ですか…このままじゃ埒があかないと思い、思いきって断ろうとした瞬間、彼女がいきなり僕の頬にチュッとキスをしてきた。
「な、何するんですか?そんな…ちょっと困りますよ…」
「北村君ってほんと純情なのねぇ…そういうところが可愛い!」
「梅田さん!もう送ります!どの辺ですか?」
つい今まで猫なで声で誘惑してきた彼女が手のひらを返したかのように冷たい口調で
「ねえ…女がここまで必死に誘ってるのにそんな言い方無いんじゃない?もういいわ!送ってもらわなくてけっこう!それじゃ…」
そう言って梅田さんは凄い勢いで車を降りてドアをバン!と閉めて行ってしまった。僕は嵐の後の静けさかと思うほどシーンとなった車内で妙な安心感に胸を撫で下ろす。僕だって男なんだ…女性に誘われて誘惑に溺れたい気持ちだってある。でも…本気で好きになった女性が僕の心の中に居るんだから、あんな安っぽい誘惑に乗るわけ無いだろ!しかし、彼女は随分と押しの強い女性だったな…僕は女性の恐さを垣間見た。そして後に彼女をふったこの日の出来事はブーメランとなって返ってくる。
気を取り直して朋美さんに会いに行こ!僕は少しアドレナリンが出ているせいか、あまりにも刺激の強かった出来事のせいか、朋美さんの身体を妄想してしまった。あのスレンダーで綺麗な立ち姿…もし朋美さんにあんな誘惑されたら絶対されるがままに落ちていくのになぁ…朋美さん…大好きです…
ふと時計に目をやると丁度朋美さんが仕事終わって帰る準備をする頃だと思い、僕は車のエンジンをかけ朝送ったコンビニへと走らせた。そして朋美さんの携帯に電話をかける。
「あっ、もしもし…あの朝のコンビニに居るんですけど、もしよかったら」
「和ちゃんありがとう!もうデートは終わったの?」
「朋美さん…デートはこれからですから!」
そう言って二人は笑った。やっぱりこういうナチュラルなのが一番幸せだよなぁ~。早く朋美さん来てぇ~!
「和ちゃん、実は丁度今コンビニの前を通過するところよ」
「え?そうだったんですか?」
そう言った瞬間朋美さんが助手席のドアを開けた。
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