第13話
「ごめんなさい…和ちゃんに誤解させるような態度取ったかしら…私の気持ちは本気よ…でも、やっぱり和ちゃんにはもっと若い女性の方が良いのかも知れないって…私の心のどこかにずっとあって…だからあまり深入りして抜け出せなくなるのが恐いの…」
朋美さんは僕から目を反らして静かにそう言った。
僕にだって朋美さんのそういう風に思う気持ちはわかる。でも、今はそんなことよりちゃんと僕に向き合っていて欲しい。僕に本気だって言ってくれるなら、全力で向き合って欲しいんだ!ちゃんと心と心で結ばれたいんだ!若さゆえか僕は生き急いでしまう。しかし朋美さんの方が冷静でちゃんと先まで見通せているのは事実なのかも知れない。僕は欲しい気持ちばかり優先して、朋美さんの付かず離れずな態度に少し焦れったさを感じている。
「朋美さん!僕はそんな先のことより今のこの時間を大切にしたい!お互い想い合っているのなら、もっと全力で恋愛をしたい!僕は恋愛経験ないから女心はわからないし、知らない内に傷つけたり迷惑かけてしまうこともあるかも知れないけど…でも、朋美さんと全力で恋愛したいんです!朋美さん…逃げずに…真剣に僕とお付き合いしてくれませんか?」
僕は勢いだけですごいことを言ってしまった…この言葉の重みにちゃんと責任取れるのだろうか…全力を相手に求めた以上、自分も100%の気持ちを朋美さんに…本当に迷いなく全て朋美さんを想う。自分が発した言葉にちゃんと責任を取らなくちゃいけない…でも、それって大丈夫なの?朋美さんの言うように、この先お互い年月を重ねた時に…僕は朋美さんをどこまで背負えるんだろう…今はまだ若いから勢いだけでどうにかなるかも知れない…そのもっと先に…いや!今はそんなこと考えちゃいけない…自分で今のこの時間を大切にしたいって言ったんだ。先のことより今なんだ!その時朋美さんが僕の方を見て
「和ちゃん…わかってる…それはわかってるんだけど…じゃあ和ちゃんにもっと若くていい女が現れて…そして私はもっと歳を取っていて…私の心が後戻り出来ないほど和ちゃんの中に居たとしたら…私は独り虚しく空回りすることに…それが辛いからなかなか…」
実は朋美には死に別れた夫が居たのだった。とても優しく、いつも笑顔の絶えない幸せな結婚生活…子宝にこそ恵まれなかったが、誠実で朋美を大事に大事にした愛する夫…しかし十年前に重い病気を患い二年間もの闘病生活を経て他界してしまった。心から愛していたがゆえにその失った悲しみとショックは大きすぎた。朋美は愛する人との別れのトラウマから真剣に恋愛をすることを避けて生きてきたのである。しかし、その愛してやまなかった夫と非常によく似た性格の和也に知らず知らず朋美は心を奪われつつあった。だからこそこの歳の差の恋愛が苦しく辛い。いつかはまた愛する男との別れが来る…そしてきっと自分が惨めに捨てられてしまう時が…それをわかっていて和也に飛び込むのは、朋美にとってはあまりにも酷なことだった。
僕は朋美さんの言葉に返す言葉が浮かばない…しばらく二人の間に沈黙の時間が流れ、意を決して僕は切り出した。
「あの!こういうのはどうでしょう!バーチャル恋愛です。付き合うっていう形は取らずに恋愛気分は楽しめる…お互い恋人同士ってシチュエーションで縛りはなく、恋人として振る舞える」
朋美さんは少し考えてる様子でじっと僕を見つめる。そして口を開いた。
「じゃあ、お互い束縛は一切なく好きな時に他の人と良い仲になっても気持ちを切り換える。 そういうことよね?」
そう言って朋美さんが僕の目を見る。僕はゆっくりとうなずき、朋美さんの表情から心情を探る。どうやら朋美さん自身もそれで納得したようで、何度か小さくうなずく。そして僕は改めて彼女にバーチャル恋愛の交際を申し込む。
「朋美さん…僕と付き合ってください。あなたのことが大好きです!」
朋美さんはニコッと笑って「はい」と優しく答えた。
「じゃあ…今度こそ番号交換しましょう!いつでもどんな時でも連絡待ってますから」
「そうね、私もいつでもいいから電話してね」
そう言ってお互いスマホを取り出し番号登録を終えた。ついに僕は本当に朋美さんと心と心が繋がったような気分になった。その時朋美さんがふと時間を確認して
「あっ!和ちゃんもう仕事に行かなくちゃ…」
すかさず僕は
「じゃあ送っていきますよ!どうせ予定も無いし、少しでも朋美さんと一緒に居たいし…」
そう言ったとき、朋美さんがそっと僕の手に白く柔らかい手を重ねてきた。そしてゆっくり僕の肩に顔を乗せて何も言わずにじっとしてる。僕もそっと朋美さんの肩を抱き寄せた。幸せな時間が2~3分経って朋美さんがそっと顔を上げた。
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