第4話

「鈴木さん…でも、この前鈴木さんも僕が体調崩した時にわざわざ来て下さいました。僕もあの時凄く嬉しかったんです!だから、困った時はお互い様で…」


「ありがとう、でもその気持ちだけ受け取っておくね」


これ以上押し付けがましく言うのは返って朋美さんを困らせると思い僕は、そうですか…と言って諦めようとした。その僕の姿を朋美さんはどう思ったのか、


「和ちゃん?せっかくだからちょっとお願いしても良いかしら?」


そう言ってくれたので、僕は元気良く、はい!と返事した。そして朋美さんは


「今から簡単な食事にするんだけど…もし良かったら一緒にどうかしら?」


僕は願ってもないその朋美さんの言葉に思わず上ずった声で、え?と聞き返してしまった。そして朋美さんはその僕の反応を見て気まずかったのか


「あっ…別にいいのよ…もし、まだだったらって思っただけで…」


僕はこんなチャンスを逃してなるものかと


「いえ!是非ご一緒させて下さい!あの…大丈夫ですか?具合の方は…と言っても僕は全然料理とか出来なくて…」


朋美さんも恥ずかしそうに


「ご飯って言っても、私も自分で作ることは出来なかったから、惣菜買ってきたものなんだけど…でも、和ちゃんの食べる分もあるのよ!」


照れながらそう言ってはにかんでいる。僕は朋美さんと少しでも長く二人きりで居られる時間を作ってくれたことに興奮して


「凄く嬉しいです!」


朋美さんに促され僕は部屋の中へ通された。1LDKの狭いアパートだが、無駄なものは置かずスッキリと整理されていて、清潔感が感じられる。僕はリビングの小さなテーブルのクッションの上に座り朋美さんが並べた惣菜を見ている。朋美さんは作りおきのお茶を出してきてコップに注いでくれた。そして朋美さんもテーブルの前に座り


「どうぞ召し上がって…って言ってもこんなんで恥ずかしいんだけど…」


「いえいえ、鈴木さんとご一緒出来るだけでお腹一杯になりそうですよ!」


そう言って二人で笑い合った。


「和ちゃん上手ねぇ!」


「いえ、本心なんです…ほんとに…」


僕は照れて目を伏せながらそう言った。僕らは箸を持ち食事を始める。


僕は朋美さんの顔をチラチラ見ている。その視線に気付いたのか、朋美さんと目が合ってしまった。朋美さんが


「なーに?何か顔に付いてる?恥ずかしいから見ないでよ~」


照れ笑いしながら言った。僕は首を横に振り、ニヤニヤしてしまう。楽しい…凄く楽しい…こんな生活が毎日続いたらどんなにいいか。僕は今幸せの絶頂だった。


「鈴木さん、お腹の調子は大丈夫なんですか?」


意外に元気そうな朋美さんを見てふと気になったのだ。


「そうねぇ、朝はけっこう痛みとか色々あったんだけど、今はだいぶ調子いいみたい。明日から仕事出れそうかな」


「それは良かったです。僕は…」


そう言いかけて黙ってしまった。ほんとは、僕は朋美さんの顔が見たいから、仕事に出て来て欲しいと言いたかった。僕が言うのを途中で止めてしまったから、朋美さんは僕の顔を見て首をかしげている。


「どうしたの?何か言いかけたみたいだけど…」


「いえ、その…別に…」


凄く僕の気持ちを伝えたい。ほんとは朋美さんのことが好きなんだと…しかし、ここで玉砕するには覚悟が足りない…というかそんな勇気をそもそも持ち合わせていない。二人は食事を終え、お茶を飲み、少しの間雑談を交わした。そして、僕はあまり長居するのは申し訳ないと思い、話が一旦途切れたところで


「あの、ごちそう様でした。鈴木さんが思ったより元気そうで良かったです。また明日体調良さそうだったら来てくださいね、仕事に…」


僕はそう言って立ち上がり玄関の方へ向かおうとした。朋美さんは


「和ちゃん、ありがとね。私凄く嬉しかったよ…こんな親みたいな歳が離れた私に優しくしてくれてほんとに嬉しい」


そう言われた瞬間、やっぱり僕はまるで子供のように見られているのかと虚しい気持ちになった。結局朋美さんにとっては、僕なんか異性としては見てもらえないのだろう…そして僕は玄関のドアノブに手をかけた。そして後ろを振り返って朋美さんにお邪魔しました。と言ってドアを開ける。朋美さんはもう一度僕に


「和ちゃん、ありがとう…お休み…」


そう言って小さく手を振りながら笑顔で見送ってくれた。僕も小さく手を振り、笑顔でドアを閉めたが、内心は凄く淋しい思いだった。そして、しばらくの間、玄関の前で僕は朋美さんの部屋の方を向いて立っていた。朋美さん…ほんとは帰りたくないです…もっとあなたと一緒に居たい…

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