第28話
結局僕は一睡も出来ないまま朝を迎えることになった。
もう…仕事に行きたくない…もう朋美さんの顔を見たくない…これからどんな顔で朋美さんと顔を合わせるの?やっぱり同じ職場で恋愛なんかするんじゃなかった…こんな酷い目に会うなら朋美さんと深く関わるんじゃなかった…ここ最近急に想い出想い出って…記念撮影って…こんな終わり方をするためにあんなに急いでたの?どうして?僕は何かしましたか?こんな当て付けみたいなことをされるようなことをしたのかな…もうこれは計画的だったのかな…体調不良って言って仕事休んでたのも全部嘘だったのかな…ほんとはあの男と陰で会ってたのかな…あの男と大人の関係を持ちながら僕を弄(もてあそ)んで馬鹿な奴だと思って笑ってたのかな…こんなの酷いよ…酷すぎるよ…あんまりだよ…僕のこの怒りと虚しさをいったいどこにぶつければいいんだよ…貴女はそれでいいかもしれない…でも、何も知らずに遊ばれてた僕の気持ちはわかってくれないの?男遍歴…あの噂は結局本当だったのかよ!僕はずっと貴女のことをそんな女じゃないと信じてたのに!本気で好きになったのに…
本気で………
愛した女性だったのに………
もう………
僕は……………
何も信じることが出来ない………………
せめて………
最後に一言……………
一言だけ言ってください……………
遊びじゃ………
なかったって………
僕を………
たぶらかしたわけじゃないって………
それだけでいい………
その言葉を………最後にくれたら………きっと救われる………
そうだ………電話で話せないのならちゃんと最後に会って話さなきゃ………
ちゃんと朋美さんの口から終わりを………告げてもらわなきゃ………
僕は前に進むことが出来ないよ!
僕はこの日仕事を休むことも考えたが、やっぱりここで逃げたらあの高橋副店長に敗けを認めることになると思った。だから、勇気を出して出勤し、そして朋美さんとちゃんと向き合って全てを終わらせようと思った。
僕は負け犬なんかじゃない!ちゃんと最後までケジメをつける!
僕はいつも通り出勤し、ただ黙々と仕事と向き合った。そして開店直前になって鮮魚コーナー従業員が皆緊急ミーティングで召集された。そこには店長と副店長も顔を並べていた。僕は高橋副店長とは一切目を合わさずにいた。
そこで店長から思いもよらぬ言葉が発せられた。
「えぇ、今皆さんにお集まり頂いたのはちょっと大事な報告がありまして、実はパートの鈴木朋美さんが、ま…家庭の都合ということであまりにも急なんですが皆さんにお別れの挨拶も出来ぬまま退職されたものですから、色々皆さんには負担をおかけすることにはなってしまいますが、ここはしばらくの間全員一丸となって協力して乗りきって頂きたいと、こういうお話であります。高橋副店長もその分出来るだけ鮮魚コーナーの補佐に回って頂けるということなので、ご理解とご協力………
僕はあまりの唐突な出来事の連続に意識が遠退いて行った。
そして気付いたら僕は事務所に仰向けで寝かされていた。
「おっ!北村君気がついたかね?」
そう声をかけて来たのは店長だった。
「いやぁ、突然倒れたから驚いたよ。すぐに救急車が来るからそのまま横になって…大丈夫かな?具合はどう?」
「す………すいません…ちょっと昨日一睡もしてなかったからだと思います………」
「どうしたの?」
「いえ…ほんとすいません…大丈夫ですから…ご心配おかけしました…」
そこへすぐに救急隊員の人達が駆けつけてきた。
「こちらの方でしょうか?」
救急隊員の人が僕に近付いてそう言った。
「すみません…大丈夫です。ちょっと寝不足で意識が朦朧として…でも、もう大丈夫なんで…すいません…」
僕は必死で謝りながら救急隊員の人達に帰ってもらった。
店長も胸を撫で下ろして今日の所はそのまま帰りなさいと言ってくれたので早退することにした。
僕は自分の部屋に戻り、また孤独で地獄のような時間を過ごすことになった。
これが…朋美さんの答えですか?何も言わず、いきなり僕の前から姿を消して…一方的に連絡も切って…
そして………朋美さんだけあの男と幸せに?
もういいや…
もうどうでもいいや…
朋美さんからもらったこの腕時計も…
もう必要ないよ…
二人で撮った写真も全部…
こんな茶番劇があるものなの?
もう全て…全て処分しよう…
もう全て忘れよう………
もう何もかも棄てやる……………
僕は壊れた。
完全に壊れた。
自暴自棄になり理性という概念を僕の中から取り払った。
そして…
僕はこの日から全く違う自分へと生まれ変わった。
飲めもしないお酒を呑んで、出会い系サイトに登録し手当たり次第に女を漁(あさ)った。
正直相手なんて誰でも良かった。自分を相手してくれる女なら誰でも…
ギャンブルにも走った。全く知識も無いのにパチンコ、スロットに手を出し、そしてどんどんどんどん生活は荒んでいった。
そんな壊れた生活が数ヶ月続いたある日、一本の電話が僕の目を覚まさせる。
「もしもし?」
「もしもし和也?久しぶりだねぇ」
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