第4話 宴が始まる

 ジイサマたちと話していたら、バアサマたちが二人1組になって広間に木の長机を並べ始めた。

「あ、俺がやりますよ」

 そう言って、俺は部屋の隅に固められた机の一つを持ち上げた。立派な木材を切り出して作られた長机はかなり重かった。

「どこに置いたらいいですか」

「まあ、力持ちやねえ」

「それに優しか。ねえ?」

 バアサマたちは奈々果に向かってそう言った。いや、そんな話より、この机をどこに置けばいいのか指示してほしいのだが……。

「祥吾、コの字に配置して。まずここ」

「オッケー」

 奈々果の指示どおりに机を配置していく。


 机を並べ終わると、今度はふきんを持ったバアサマが現われ、あっという間に机を拭いていった。そして、ご馳走の乗った皿を持ったバアサマたちが続々と広間に入ってきた。

 がめ煮、棒タラの煮付け、からあげにちらし寿司まである。そのほかには茹で栗、むいた梨などが盛られた皿が出てきた。

「手伝わなくて済みません、これだけ作るのは大変だったですよね」

 両親を亡くした後、伯母の援助を受けつつも一人暮らしをしてきた俺はその大変さがよくわかる。

 バアサマたちは笑って首を横に振った。

「みんなの家から持ち寄ったもんやけん、気にせんで」

「そうそう。急やったけんね。こんなの全然たいしたことなかよ」

 奈々果のおばさんも、手に寿司桶を持って入ってきた。中には太巻きが綺麗に並んでいた。

「どうにかご馳走が間に合ってよかったわ」

「おばさん、済みません、こんなにしてもらって」

 ありがたい。ありがたいのだが、みんな本来の目的を忘れていないだろうか。俺は神社前の広場の件で話し合いをしたいのだが、みんなはこれから宴会が始まると思っていないだろうか。

「祥吾、これ並べて」

 箸と箸置きを渡されたので、机に並べつつ、奈々果にそっと話しかけた。

「なあ、みんな宴会する気だよな?」

 奈々果はコップを並べながら、

「そうだね。でも、話し合いっていつもこうだから」と何でもないことのように言った。

「そうなのか……」

 盆正月しか帰ってくることのなかった俺は、村の話し合いがどのように行われているのか知らなかった。


「そうら、酒が来たばい!」

 そう言いながら、大量の酒瓶を抱えたジイサマが広間に入ってきた。寒北斗というラベルが見えた。地酒だろうか。

「さあさあ、祥吾くん。飲みなっせ」

 手にグラスを握らされて寒北斗を注がれた。なみなみと。もう今夜は泊まることが確定した。まだ暑い時期だし、祖父母宅にもぐりこめば一晩明かすぐらいわけないだろう。それにしても、こんなに飲めるだろうか……。実はあまり強くないのだ。

「じゃあ、みんな席について。乾杯しましょ」

 と上座にいるジイサマが言った。どうもこの場を仕切る人物のようだ。その隣には奈々果の父が座っている。

「あれ、誰?」

 俺は奈々果の隣に座って、そっと奈々果に尋ねた。

「お寺の住職さんだよ」

 住職って、昼間っから酒を飲んでいいんだろうか。そんな疑問を村人は誰も抱いていないようだった。

「あっちにいるのは息子さんの副住職さんで、その隣が奧さんたち」

 詳しいな。頼もしいぞ、奈々果。

「皆さん、コップは持ちましたか。はい、それじゃあ、おかえりなさい、祥吾くん。かんぱーい」

「かんぱーい」

 みんな嬉しそうに酒に口をつけた。

 なあ、これってやっぱり話し合いじゃなくて宴会じゃないのか?

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