第7話 不幸な魂が生まれ変わるシステム

 子供の親は見つからなかった。


 駐在さんが県警本部に掛け合ってくれたおかげで、遺体は村に運ばれることになった。ドライアイスに囲まれたあの子が村に到着したとき、服は着ていなかった。衣服はいつか身元の特定できそうな事実が見つかったときのため、そして事件である可能性もゼロではないからということで、証拠として警察に保全されているらしい。白い布で覆われただけの遺体は、バアサマたちの涙もろい心を刺激した。

「ああ、こんな姿でほんとうに」

「うちの孫の小さいころのよそ行き着があったけん、それ着せてやりましょ」

「それがよか」

「ちょうど竜胆がきれいな頃よ、摘んできて棺に入れてやりましょ」

「子供が死ぬことほど悪いことはなかねえ」

 そこで俺は初めてその子の顔を見た。本当に幼い、まだ赤子といってもいいぐらいの小さな顔は青白く、見ているだけで胸が潰れそうだった。


 葬儀は小学校で行われた。敷地内は立ち入り禁止の看板が立てられていたが、誰もそんなことは気にしない。堂々と校門を開け放ち、体育館に祭壇をつくって、住職さんがお経をあげた。バアサマたちは数珠をもみながら、また泣いた。


 遺体を焼き場で焼いてもらって、そこではじめて遺骨をどうするのかという話になった。てっきり住職さんのところの寺で供養してもらえるものとばかり思っていたので驚いた。

「八須見寺の納骨堂じゃだめなんですか」

 俺の祖父母も両親もそこにいる。

「あそこは村人しか入れんとよ。何百年も前からそういうことになっとる」

 初耳だった。

「じゃあ、どうするんです」

「広場でお祀りしましょ」

 バアサマたちがそんなことを言いだした。

「広場って、あの神社の前の広場ですか?」

 バアサマたちは頷いた。

「昔々から決まっとると。この村で亡くなった余所もんの御遺体は、あそこに埋めるとよ」

 もともと宿場町として栄えた村だ。旅人などが行き倒れることもあっただろう。そうしてこの村で亡くなった者は、昔からあの広場に埋めると決まっているらしい。

「それっていつ頃からですか」

「そうね、400年ぐらい前にはもうそういうことをやりよったらしいけど」

 宿場町で亡くなる人は年間何人いただろうか。少なく見積もったとしても1年に1人はいたとして、最低400人は埋まっているわけで。

「俺、その上で盆踊りしたり餅つきしたりしてたのか……」

 なんだか罰当たりな気がするのだが。

「それが供養になるとよ」

 とジイサマもバアサマも言う。そういうものだろうか。

「村の大事な広場に埋めることで、この村の人間として生まれ変わって、今度こそ幸せになってくださいって願いをかけると」

「そうやけん、この村で生まれた人はここに埋まっとる人の生まれ変わりってことやけんね。自分の前の体を踏んだってよかろうもん」

「そうそう、気にせん気にせん」


 そうして、骨壺を埋めるための穴を掘ることになった。広場は階段で50段ほどあがったところにあり、車や重機は入れない。人力で掘るしかなかった。そして、この村は老人ばかりで、男手として俺が期待されているなというのはびんびんに伝わってきていた。

「頑張ってくれたら、お礼に酒盛りしますけん、よろしく頼みます」

 気の毒な子供のために穴を掘るぐらい、もともとやる気だったし、別にお礼なんて要らないのだが。


 しっかりと踏み固められた地面に、力を込めてスコップを突き立てると、どういうわけかすっと刃先が地面に入り込んだ。思っていたより簡単に掘り進めることができた。掘るのに障害となるような石一つ出てこなかった。まるで広場が意思を持ち、新しい気の毒な魂を受け入れようとしているかのようだった。

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