とうふこぞう

安良巻祐介

 蛞蝓の置物を古道具屋で何気なく買って、部屋の隅に置いておいたら、その日から少しずつ部屋の湿度がじわじわ上がっていき、気づけば机も椅子もカビだらけになってしまった。

 蛞蝓を置いておいた本棚の上から、湿気とカビの黒ずみが波紋上に広がっており、その中心で、蛞蝓は、買った時よりも遥かに色つやが良くなっている。

 動かそうとして触ったら、こっちの体にもカビが生えて来たので、慌てて元の場所に戻した。

 理不尽だとは思うが、もはやどうしようもない。

 よそへ引っ越す金もないし、カビの色に侵されていく部屋の中で、やたらと長く伸びる自慢の舌を使って、膝の上の盆に載せた真っ白な紅葉豆腐を、カビが回らないうちにぢろぢろと舐めて過ごす日々である。

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とうふこぞう 安良巻祐介 @aramaki88

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