事故死した歌姫のコピーとして作られたアンドロイドが、冷凍睡眠中の富豪を目覚めさせるために歌う物語。
主人公であるアンドロイド、十一号(エルフ)の主観視点で綴られたSFです。
一人称体の文章、そこかしこに見える「機械としての自覚」がSF的で楽しく、しかしその文体ががっつり口語体してるのがもう面白いです。
文章そのものが示す人柄や性格。翻って、文体そのものが「この主人公はそういう機微を持ち得る存在である」と示していること。
そも「すでに死亡した人間を機械的に再現する」という行為も含め、設定や雰囲気はしっかりSFでありながら、でも描かれている内容そのものはどこまで行っても人間の愛憎や情念であるという、そのギャップのようなものが最高でした。
満足感と納得感のある結末が心地よく、でも同時に想像の余地があるところが大好き。がっつり内面に食い込んだ主観視点ならではの、ある種の危うさや不確定度合いのようなもの。
気づかぬうちに想像力を刺激される、非常に細やかに練り上げられた佳作でした。
最初はロマンチックなSFだなと思ったが、とんでもないサイバーパンクでした。AIの自我と感情。
作品紹介の粗筋と出だしで、もうこれだけで一つの掌編として完成してるじゃん! ここからどう広げるの? と思ったら、続くマヤの登場でそう来たかと膝を打ちました。マヤという女性の立場は非常に複雑だと感じていたのですが、ラストで彼女と夫の関係性が紐解かれて、一気に腑に落ちました。
あのような形に固執してしまう彼らは、その意味では「旧態としての人間」そのままなのですね……。
その一方で、主人公の「十一号(エルフ)」は自律思考型アンドロイドでありながら、この上なく「人間性」を獲得しています。
かつて生きた人間を模しながら、自分は偽物、代替品などとくよくよするような葛藤とは無縁。「同じ存在」とあまりに清々しく断言するさまに、最初は哀れみさえ覚えていたのですが、とんでもない。
彼女には彼女の強固な自我があり、それが予想外の、そしてタイトルに予言されていた結末へと導くのでした。なんて爽快で、力強い物語!
大変楽しく読ませていただきました、ありがとうございます。