文字を通じて伝わってくる、不快な感触の切れ味

 よく当たる占い師の噂を聞き、その住まいである長屋を訪れた侍の、奇妙な悩み事のお話。

 時代もののお話です。人の技を超えた不思議な占いが登場するという点においては、ファンタジー(というか伝奇)的な魅力もありますが、お話そのものは硬派で堅実な時代小説してるのが嬉しい作品。

 もうとにかくなめくじ絡みの描写がすごい。ゾワゾワ総毛立つというかもう「ホギャァァァァ!」と叫びだしたくなるようなこの不快感!
 なめくじに限らず長屋の悪臭やぬかるみの感触など、とにかく細かいところからじわじわ詰めてくる悍ましさの、その質と量がもう本当に最高でした。文字情報だけでここまで感覚を揺さぶられることの気持ちよさよ……。

 お話の展開そのものはホラー的ではないというか、例えば「直接恐ろしい怪異に脅かされる」という筋ではないのですけれど、でも「不快さや悍ましさの楽しみ」をぶつけてくるところが好きです。
 主人公が占いによって知ろうとする悩みの内容とその真相も含め、ワクワクしながら(でもゾクゾクも同時に味わいつつ)読めた作品でした。筆致の細やかさとモチーフの使われ方が素敵!

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